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湖泥 三 (4)

时间: 2023-12-14    进入日语论坛
核心提示:「それから、どうしたんだ」「へえ、あの死体を小屋へはこんでくると、ぬれた着物をぬがせて裸にして、自分も裸になって、肌と肌
(单词翻译:双击或拖选)

「それから、どうしたんだ」

「へえ、あの……死体を小屋へはこんでくると、ぬれた着物をぬがせて裸にして、自分も

裸になって、肌と肌をくっつけてあたためてやりましたんで。……そうすると、息を吹き

かえすことがあるということを、聞いておりましたもんですから。……しかし、由紀ちゃ

んはとうとう息を吹きかえしませんでしたんで。……」

「そのとき、貴様はなぜすぐそのことを、御子柴のうちへ知らせてやらなかったんだ。御

子柴のうちで大騒ぎをして、由紀子ちゃんをさがしていることを、貴様だって知ってたろ

うが」

 九十郎は臆おく病びようなけだもののような感じのする眼を、ちょっとあげて清水巡査

の顔を見ると、ひげだらけの口をもぐもぐさせながら、

「へえ、それが……あんまりかわいい顔をしているもんですから……まるで、観音様みた

いにきれいで……それですから、つい手ばなすのが惜しゅうなりましたんで……わたしも

ひとりで寂しいもんですから」

 さすがに眼は伏せていたが、顔あからめもせず、全然無感動な声なのである。

 磯川警部も清水巡査も、ちょっと二の句がつげぬという顔色である。金田一耕助も背筋

をムズムズとはいのぼる不快感を払いおとすことができなかった。

「きみ、きみ、九十郎君」

 と、金田一耕助はのどにからまる痰たんをきるように、二、三度つよくから咳せきをす

ると、

「きみが湖水から拾いあげたとき、死体にはすでに片眼がなかったのかね」

 九十郎はギロリと耕助の顔を見たが、すぐにその眼を伏せると無言のままうなずく。

「それでもきみにはこの顔が、観音様のようにきれいに見えたのかね」

 九十郎は眼を伏せたまま、

「へえ、そっちのほうさえ見なければよろしいんで……」

 金田一耕助がつづいてなにか尋ねようとしたとき、よこから磯川警部がつよい語気でこ

とばをはさんだ。

「おい、着物はどうした? 由紀子の着物はどうしたんだ」

「へえ、その行こう李りのなかに入っておりますんで……」

 押し入れの下の段に、古い、小さな柳行李が押し込んである。清水巡査がそれをひらく

と、はたしてなかから湿った銘めい仙せんの着物が出てきた。なるほど、相当ながく水に

つかっていたとみえて、粗末な染めの染料が落ちている。肌着から足袋までいっさいがっ

さいそろっていたが、みんな絞ったきりなので、じっとりとぬれている。荒縄は湖水へす

てたという。

 金田一耕助はだまって考えていたが、急に清水巡査のほうへむきなおると、

「清水さん、水車小屋の付近に舟がありますか。すぐ手に入るようなところに……」

「はっ、あの、それは……ふだんはありませんですが、だれかが米が搗ついているときに

は、いつも外につないでありますんです。御存じないかもしれませんですが、あそこは部

落からうんとはなれておりますし、道がわるいもんですから、米を搗きに行くときには、

みんな舟で行くんであります」

 金田一耕助はまたちょっと考えて、

「四日の晩、米搗きに行ったのは勘十という男でしたね。そのへんにいたら、ちょっとこ

こへ呼んでくれませんか?」

「はっ」

 清水巡査が出ていったあとで、金田一耕助は死体に布団をかけなおした。

 勘十はすぐ見つかった。九十郎の家になにかことがあると知って、崖下へあつまってき

た野次馬のなかに、勘十もまじっていたのである。

「九ン十、おまえ、どうしたんじゃい。旦那、九ン十がなにかやらかしたんで」

 勘十は三十くらいの、このへんの人間特有の、頰ほお骨ぼねの出張った男である。

「ああ、いや、それはいまにわかりますがねえ」

 と、金田一耕助がよこからひきとって、

「四日の晩、あんたが水車小屋へ行ったとき、なにかなくなったものがあるのに気がつき

ませんでしたか。なにかこう、おもしになるようなものが……」

 勘十はびっくりしたような眼で、金田一耕助の顔を見なおすと、

「へえ、あの、そういえば碾ひき臼うすがひとつのうなっておりましたんで。……いえ、

もう、ちかごろでは使っておりませんので、のうなってもだいじないもんですが、これ

を……」

 と、腰からきせるを取りだすと、

「吸うときに、吸すい殻がらを落とすのに便利なもんですから……」

「石の碾臼?」

「へえ」

「どのくらいの大きさ?」

「これくらいで……」

 勘十が手の指で、直径八寸くらいのまるみをつくってみせるのを、磯川警部と清水巡査

が緊張した眼で見まもっている。

 金田一耕助はうれしそうにうなずいて、

「なるほど、わかった、ありがとう。ところでねえ、勘十君、あんたその晩、小屋のなか

にガラス玉みたいなものが落ちてるのに気がつかなかった?」

「ガラス……?」

 と、勘十は不思議そうに眼を見張って、

「ガラス玉ってなんですか」

「いや、いや、それはなんでもないんです。そうそう、それからもうひとつおききしたい

ことがあるんだが、あんた水車の当番を北神浩一郎君とかわったでしょう。あれ、あんた

からいいだしたの、それとも浩一郎君から申し込みがあったの?」

「ああ、あれは浩ちゃんのほうからいわれましたんです。わたしは祭りを棒にふるつもり

でおりましたんですが、浩ちゃんにそういわれたんで大よろこびで……」

「ああ、そう、いや、どうもありがとう」

 金田一耕助は磯川警部と眼を見かわせた。

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