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人面瘡 二(3)

时间: 2023-12-18    进入日语论坛
核心提示: 金田一耕助は改めてその貞二君の顔を見なおした。この男は松代という女の自殺未遂をどう思っているのか。多少なりとも不ふ愍び
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 金田一耕助は改めてその貞二君の顔を見なおした。この男は松代という女の自殺未遂を

どう思っているのか。多少なりとも不ふ愍びんがっているのか。それとも迷惑なこととし

て内心の怒りをおさえかねているのではないか。

 どっちともとれる貞二君のそのときの顔色だった。

 金田一耕助はふとさっき見た松代の姿を思い出していた。雲を踏むような足どりで稚児

が淵のほうへおりていった、松代の奇妙な姿を脳のう裡りにえがきだしていた。

 しかし、そのことについてはまだいうべき時期ではないであろうと差しひかえた。いず

れ松代が覚かく醒せいしたらそのことについてただしてみよう。

 その松代は額にいっぱい汗をうかべて、寝苦しそうな荒い息使いである。顔色がびっく

りするほど悪かった。

 金田一耕助はまた改めて遺書の文面に眼を落して、

「それにしてもここに妙なことが書いてありますね。由紀ちゃんを殺したのはこれで二度

目ですと。……これはいったいどういう意味でしょう。病気のせいとはいえ、二度も由紀

ちゃんを殺すなんて……と、書いてありますが、松代君はまえにも妹さんを殺した……い

や、殺そうとしたことがあるんですか」

 金田一耕助は貞二君を見た。貞二君はあいかわらずふてくされたようすで、ふてぶてし

くぶっきらぼうな調子で、

「松代は気が変になっていたんです」

「気が変になっていた……? なにかそういう徴候があったんですか」

「いや、いや、そういうわけじゃありませんが……」

 と、貞二君はいくらかあわてた調子で、

「しかし、そうとしか思えないじゃありませんか。でなきゃそんな妙なことを書くはずが

ない。おなじ人間を二度殺す。そんなバカなことがあるはずがないじゃありませんか。だ

いいち、今夜、由紀子を殺したというのだって、どうだかわかったものじゃない」

「しかし、それじゃ由紀子さんはいまどこにいるんです。こんな時刻に若い娘が家のなか

にいないというのはおかしいじゃありませんか」

 そのときまた金田一耕助の脳裡には、ひょうひょうたる足どりで、稚児が淵のほうへお

りていった松代の姿がうかんだが、かれはあわててそれを揉もみ消した。

「なあに、どっかひとめのつかないところで寝ているか、それとも……」

「それとも……?」

「いやさ、だれか男と逢あい曳びきでもしているのかもしれませんよ。あっはっは!」

 こういう場合としては、貞二君のその笑いかたには、なにかしらひとをゾッとさせるよ

うな毒々しさがあり、また多分にわざとらしかった。

 金田一耕助は眉まゆをひそめて、さぐるようにあいての顔色を見つめていたが、それで

も言葉だけはおだやかに、

「いや、できればそうあってほしいものですね。ところで最後に、由紀ちゃんの呪のろい

が腋の下にあらわれて……と、いうのはどういうわけですか」

「ああ、そのこと……」

 と、磯川警部は膝をのりだして、

「じつはそれなんです、先生、あなたに見ていただきたいものがあるとさっき申上げたの

は……貞二君、金田一先生に見ていただこうじゃないか」

「はあ……」

 と、貞二君は答えたものの、その眼にはちょっと怯おびえたような色が走った。

 金田一耕助はふしぎそうにふたりの顔を見くらべながら、

「なんです。その見てほしいとおっしゃるのは……?」

「いや、じつはこれなんですがね」

 磯川警部が掛蒲団をめくるのを、貞二君は毒々しい眼で見つめている。

 磯川警部は蒲団を胸までめくると、女の胸を左右にかきわけ、金田一耕助の眼のまえで

右の腋の下をむき出しにした。

 と、同時に金田一耕助は大きく眼をみはって、思わず息をはずませたのである。

 女の腋の下にはもうひとつの顔がある。

 もっとも大きさはふつうの人間の顔よりよほど小さく、野球のボールくらいである。し

かし、それはたしかに人間の顔……それも女の顔のようである。

 眼、鼻、口……と、死人のように妙にふやけた顔だったが、まぎれもなく人間の顔の諸

器官を、のこらずそなえているではないか。

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