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人面瘡 六(5)

时间: 2023-12-18    进入日语论坛
核心提示: それにたいする由紀子の答えはこうだった。 じぶんと譲治さんが寝ているところへ、だしぬけに姉さんがその庖丁をもってとびこ
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 それにたいする由紀子の答えはこうだった。

 じぶんと譲治さんが寝ているところへ、だしぬけに姉さんがその庖丁をもってとびこん

できて、譲治さんをズタズタに斬り殺し、じぶんもこれこのように。……

 と、由紀子がみせた左の胸部からは、恐ろしく血が吹きだしていた。

 松代は恐怖のあまり肉斬り庖丁をそこへ投げだし、そのままそこから逃げだしたが、そ

の直後に起ったのがあの大空襲だった。

「なにもかもがめちゃくちゃでした。あたしは恐ろしい罪業と、あの大空襲で気が狂うよ

うでした。一夜の空襲で灰かい燼じんと帰した神戸を捨てて、あたしはあてもなく疎開列

車に乗りこみましたが、とても郷里へかえる勇気はありません。あたしは恐ろしい罪の思

い出をいだいて、岡山県のあちこちを放浪したあげく、とうとう辿たどりついたのがこの

家でございます」

 このとき、こらえきれなくなったかのように、松代の眼には涙がにじんだ。松代は涙の

にじんだ眼をお柳さまにむけて、

「あのときのご隠居さまのご親切は、死んでも忘れることはできません。罪深いあたしを

ご隠居さまは、やさしい愛情で抱きくるんでくださいました。ご隠居さまがやさしくして

くださればくださるほど、あたしの心はうずき苦しみました。あたしにとって恐ろしいの

は、過去の罪業も罪業でしたが、それ以上に現実に、日夜やさしいご隠居さまを、あざむ

きつづけているということでございました。たとえ夢遊病の発作中とはいえ、……いい

え、そのようなことはなんの弁解にもなりませんわねえ。あたしはひとを殺した女なので

す。ご隠居さまのやさしいご親切を、受入れるねうちのない女なのでございます」

 金田一耕助がなにかいおうとした。しかし、松代はすばやくそれをさえぎると、あいか

わらずふかい哀愁のこもった声で語りつづけた。

「この春ごろからあたしの右の腋わきの下に、ふしぎなおできができました。はじめのう

ちはたいして気にもとめませんでしたが、それがぐんぐん大きくなって、人間の顔のよう

になりました。あるときあたしは鏡にうつしてそのおできを見て、それが由紀ちゃんの顔

にそっくりなのに気がついたとき、あたしはそのまま死んでしまわなかったのが、いまか

ら思ってもふしぎなくらいです。そのときあたしは思ったのです。由紀ちゃんの呪のろい

がこもって、このようないまわしいおできができたのだと……」

 松代はふかい溜息を吐くと、しずかにひと滴の涙を指でぬぐうて、

「そのときも、あたしはよっぽど死のうかと思ったのです。あたしが死のうと考えたの

は、そのときがさいしょではございません。この家へ辿りつくまで……いえいえ、このお

家へ辿りついてからも、なんど死を思いつめたかしれません。しかし、意気地のないあた

しには、いつもそれを決行することができないのでした。このいやらしいおできができた

ときも、あたしは死を思いつめ、迷い、ためらい、じぶんを叱り、ずいぶん苦しんだので

したが、なんとそこへひょっこりと、死んだと思った由紀ちゃんが訪ねてきたではござい

ませんか」

 松代はかすかに身ぶるいをすると、

「由紀ちゃんはかえってあたしを慰めてくれました。なんでも由紀ちゃんはひどい傷だっ

たけれど、危いところでいのちを取りとめたのだそうでございます。由紀ちゃんはいいま

した。譲治さんの死体は空襲でやけてしまったから、だれもあのことをしっているものは

ない。昔のことは忘れてしまいなさいと……」

 松代の眼からまた放心のいろがふかくなってきた。彼女はうつろの眼を縁側の外へは

なったまま、

「由紀ちゃんはあたしを許してくれました。しかし、由紀ちゃんが許してくれても、譲治

さんを殺したあたしの罪は消えるものではございません。こういういまわしいおできがで

きたのも、ゆうべのような出来事が起る前兆だったのではございますまいか。由紀ちゃん

の呪いはやはりあたしの胎内に宿っているのでございます。ご隠居さま、先生、警部さ

ま、ゆうべ手を下して由紀ちゃんを殺したのは、あたしでなかったかもしれません。で

も、そのまえにあたしは譲治さんを殺しているのです。あたしはやっぱり人殺しの犯人で

ございます」

 語りおわって松代はシーンと涙をのんで泣いていた。

 磯川警部は唇をへの字なりに結んで、にがにがしげに渋面をつくっている。

 松代はこういう告白をする必要はなかったのだ。彼女が語るところが真実としても、い

まではなんの証拠も蒐しゆう集しゆうすることはできないであろう。あの大空襲がなにも

かも焼きはらってしまって、松代の罪業はあとかたもなく消滅してしまったのだ。しか

し、警部としては職業柄、こういう告白を聞いた以上、聞きずてにするわけにはいかな

かった。

 磯川警部が困ったように金田一耕助と顔を見合せているところへ、障子の外からかるい

咳せき払ばらいとともに、ひくい、沈んだ男の声がきこえてきた。

「御免ください。田代啓吉でございます。ちょっとお耳に入れておきたいことがあるんで

すが……」

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