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一枚邮票-上(4)

时间: 2021-09-10    进入日语论坛
核心提示: ところが、茲に一つ残された難問題がある。というのは、最初話した死人の懐中(ふところ)から出たという書置だ。色々調べて見た
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 ところが、茲に一つ残された難問題がある。というのは、最初話した死人の懐中(ふところ)から出たという書置だ。色々調べて見た結果、それは正しく博士夫人の手蹟(しゅせき)だと判明したんだが、どうして夫人が、心にもない書置などを書き得たか。それが黒田刑事にとって一つの難関だったのだ。刑事もこれには大分手古摺(てこず)ったと()っているがね。が、マア苦心よろしくあった後、発見したのが、(しわ)になった数枚の反故紙。これが何だというと手習草紙(てならいぞうし)でね、博士が、夫人の手蹟を、何かの反故に手習したものなんだ。その内一枚は夫人が、旅行中の博士に宛てて送った手紙で、これを手本にして、犯人が自分の妻の筆癖を稽古(けいこ)したという訳だ。なかなかたくらんだものさ。それを刑事は、博士の書斎の屑籠から発見したというんだ。
 で、結論はこういうことになる。眼の上の(こぶ)であり、恋の邪魔者であり、手におえぬ狂気である所の夫人を、なきものにしよう。而かも博士である自分の名誉を少しも(きずつ)けぬ方法によってそれを遂行しようと深くもたくらんだ博士は、薬と称して一種の毒薬を夫人に飲ませ、うまく参ったところを、肩に担いで、例の短靴をつッかけて、裏口から、幸にも近くにある鉄道線路へと運んだ。そして犠牲者の懐中(ふところ)へ用意の(もっと)もらしい書置を入れて置いた。やがて轢死が発見されると大胆なる罪人は、さも驚いた表情を以て、現場へ駈けつけた。とこういう次第だ。何故(なにゆえ)に博士が夫人を離別する挙に()でないで此危険なる道を()ったかという点は、多分新聞記者自身の考えなのだろうが、ある新聞にこう説明が下してあった。それは第一に故老博士に対する情誼(じょうぎ)の上から、世間の非難を恐れたこと、第二にあの残虐を(あえ)てする博士には、(あるい)はこの方が主たる理由であったかも知れないが、博士夫人には親譲りの一寸した財産があったということ、この二つを上げている。
 そこで、博士の引致(いんち)となり、黒田清太郎氏の名誉となり、新聞記者にとっては不時の収穫となり、学界にとっては一大不祥事となって、君も云う様に、世間は今この噂で湧いている始末。ちょっとドラマチィックな事件には相違ないからな」
 左右田はこう語り終って、前のコップをグイと乾した。
「現場を見た興味があったとはいえ、よくそれ丈け詳しく調べたね。だがその黒田という刑事は、警察官にも似合わない頭のいい男だね」
「マア、一種の小説家だね」
「エ、アア左様(そう)だ。絶好の小説家だ。(むし)ろ小説以上の興味を創作したといってもいい」
「だが、僕は、彼は小説家以上の何者でもないと思うね」
 片手をチョッキのポケットに入れて、何か探りながら、左右田が皮肉な微笑を浮べた。
「それはどういう意味だ」
 松村は煙草の煙の中から、眼をしばたたいて反問した。
「黒田氏は小説家であるかも知れないが探偵ではないという事さ」
「どうして?」
 松村はドキッとした様であった。何かすばらしい、あの()べからざる事を予期する様に、彼は相手の眼を見た。左右田はチョッキのポケットから、小さい紙片(かみきれ)を取出してテーブルの上に置いた。そして、
「これは何だか知ってるかい」
 と云った。
「それがどうしたと云うのだ。PL商会の受取切符じゃないか」
 松村は妙な顔をして聞き返した。
「そうさ。三等急行列車の貸し枕の代金四十銭也の受取切符だ。これは僕が轢死事件の現場で、計らずも拾ったものだがね、僕はこれによって博士の無罪を主張するのだ」
「馬鹿云い給え、冗談だろう」
 松村は、満更ら否定するでもない様な、半信半疑の調子で云った。
「一体、証拠なんかに拘らず、博士は無罪であるべきなんだ。富田博士ともあろう学者を、高が一人のヒステリー女の命の為にこの世界――そうだ、博士は世界の人なんだ。世界の幾人を以て数えられる人なんだ。――この世界から(ほうむ)って了うなんて、どこの馬鹿者がそんな事を考えるんだ。松村君、実は、僕は今日一時半の汽車で、博士の留守宅を訪問する積りでいるんだ。そして、少し留守居の人に聞いて見たいことがあるんだ」
 こういって、腕時計を一寸眺めた左右田は、ナプキンを取ると、立上った。
「恐らく博士は自分自身で弁明されるだろう。博士に同情する法律家達も博士の為に弁ずるだろう。が、僕が此処に握っている証拠物件は他の何人も所有しないのだ。訳を話せってのか。マア待ち給え。も少し調べて見ないと完結しない。僕の推理にはまだ一寸隙があるんだ。それを(みた)すべく一寸失敬して、これから出掛けて来る。ボーイさん。自動車をそういって呉れ給え。じゃ、また明日逢うことにしよう」

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