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愛之助不思議なポン引紳士にめぐり合うこと_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:愛之助不思議なポン引ぴき紳士にめぐり合うこと青木も品川も、この奇妙な事件にすっかり惹ひきつけられてしまった。前にも云った
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愛之助不思議なポン ぴき 紳士にめぐり合うこと


青木も品川も、この奇妙な事件にすっかり きつけられてしまった。前にも云った通り、猟奇者青木は、猟奇倶楽部なんかでは経験の出来ない生々しい怪奇であったが故に。又実際家品川は、それが現実の不可思議であり、しかも直接彼自身の問題であったが故に。
彼等は出来るならば、そのもう一人の品川四郎を探し出したいと思った。だがそれは とて も不可能な事だ。新聞に懸賞 尋人 たずねびと 広告でも出して見たらと考えたけれど、先方がスリを働く様な犯罪者なんだから、広告を見たら かえ って警戒するばかりだ。
「君、今度若しそいつに出っくわす様なことがあったら、尾行して住所をつきとめてくれ給えね。僕も無論心掛る積りだけれど」
「いいとも、君の為でなくて、僕自身の好奇心 けでもそれはきっとやるよ」
で、結局、彼等両人が盛り場を歩いたりする時、行違う人に注意を おこた らず、気長にその男を尋ね出すしか方法はないのであった。
まるで雲を掴む様な話である。 しか し読者諸君、「世間は広い様で狭い」とはよく云った。それから二ヶ月程たったある日のこと、彼等は遂にそのもう一人の品川四郎を見つけ出したばかりか、いとも不思議な場面に おい て、両品川が一種異様の対面(アア、それが 如何 いか に奇怪千万な対面であったか)をする様なことになったのである。
だが、それを語る前に、余談に わた るけれど、順序として、青木愛之助のある変てこな経験について、(それが決して興味のないことではないのだから)少々紙面を費やすのをお許し願わねばなりません。
事の起りは彼等が宝来館で「怪紳士」の映画を見物した翌十二月、青木愛之助が、ふと銀座裏のある陰気なカフェに立寄ったことから始まる。
もうボツボツ 避寒 ひかん の季節だから、上京でもあるまいと二の足を踏んだけれど、虫が知らすというのか、何となく東京の空が恋しくて、つい上京してしまった。その滞京中の出来事である。
歳末の飾り 美々 びび しい銀座街の夜を 一巡 ひとめぐり 歩いて、
「こんな、つまらない町へ、毎晩散歩に出掛けてくる青年少女諸君もあるんだなあ」と 今更 いまさ ら不思議に感じながら、併し、猟奇者青木愛之助は、その裏の方の小暗い隅には何かしら隠されている様な気もして、未練らしく横町を暗い方へ暗い方へとさまよって行った。
とある裏町を歩いていると、ふと目についたのは一軒の小さなカフェである。目についたと云っても、決してその うち が立派であったり、 にぎや かであったり、その ほか の目立つ特徴があった為ではない。表通りの名あるカフェに引きかえて、余りにも淋しく、陰気で、影が薄かったからだ。
ひどくしょんぼりしている有様を可哀想に思ったので、愛之助は何という事もなく、ツカツカとその家へ這入って行った。十坪程の土間に、離れ離れに三四脚のテーブルが置かれ、常緑樹の大きな鉢植えが、その間々に、 八幡 やわた 藪不知 やぶしらず の竹藪の感じで並んでいる。キザな流行の赤や紫にしている訳ではないが、電燈は 蝋燭 ろうそく の様に、というよりも寧ろ 行燈 あんどん の様に薄暗く、シーンと静まり返って、一人の客もなければカウンターに給仕の姿も見えぬ。墓場みたいなカフェである。その癖、暖房の装置はあるのか、ホンノリと暖か味が かよ って不愉快な程寒くはない。
青木は、大声に給仕を呼ぶのも 野暮 やぼ だと思ったので、先ず椅子につく為に、片隅の鉢植の葉蔭へ這入って行った。そしてドッカリ腰をおろした時、彼は意外にも、その同じテーブルに一人の先客がいることを発見した。薄暗い中でも薄暗い、部屋の隅っこだったのと、その客が非常に静かにしていたので、つい気附かなんだのである。
「失礼」と云って席を換えようとすると、その客は「イヤ、どうかその まま 。僕も丁度相手がほしくっていた所ですから」と手でとめるのだ。見ると、中年の洋服紳士で、どことなく 人懐 ひとなつ っこい男である。それに中々凝った仕立ての、安くない服を着ている。青木はブルジョアの癖として、そんなもので相手の身分を想像し、安心して彼のお相手をする気になった。
やがて、いないと思った給仕が、どこからか影の様に現れて、注文の品々を運んで来た。決してまずい料理ではない。酒も上等のものが揃っている。そこへ持って来て、人懐っこい話相手。愛之助はすっかり上機嫌になってしまった。
「居心地の悪くない うち ですね」
「でしょう、僕はここが非常に気に入っているんですよ」
という様なことから、二人の間に段々話がはずんで行った。愛之助は酒に強くないので、チビチビ めた二杯のウィスキイで、もう酔ってしまって、ボンヤリと、いい気持になっていた。そこで、彼は例によって「退屈」について語り始めたものである。
相手の紳士は、同感と見えて、成程成程と肯きながら聞いていたが、暫くすると、非常に 婉曲 えんきょく な云い廻しで、愛之助の身分を尋ねるのだ。青木は酔っていたものだから、知らず らず相手の調子に乗せられて、彼の身の上を語っていたが、 流石 さすが にふと気づいて、変な顔をして尋ねた。
「オヤオヤ僕は自分のことばかり喋っていましたね。ところで今度はあなたの番だ。ハハハハハハ御商売は」
すると相手の紳士は、一寸とりすまして見せて、意外なことを云うのである。
「私はね、これで一種のサンドイッチマンですよ。これからあなたにビラを配ろうという訳なんです」
何とまあ立派なサンドイッチマンであろう。
「イヤ決して冗談ではありません」と紳士は続けるのだ。「私は実は、あなたの様な猟奇…… しゃ ですかね、つまり好奇心に富んだお方を、こうしてカフェなどを歩き廻って探すのが役目でしてね。それ丈けでちゃんと月給を頂いているのですよ。体のいいサンドイッチマン、も一つ言葉を変えて云えば」と内しょ声になり「つまる所 妓夫太郎 ぎゆうたろう なんです」
青木は紳士の云うことが余り変なので、 面喰 めんくら った形で、マジマジと相手の顔を眺めていた。
「ある秘密な うち がありましてね」と紳士が説明する。「そこへは上流社会の方々、富豪とか大官とか、……………さえも、(殿方も御婦人もですよ)ひそかに御出入なさるのです。と云えば大抵お分りでしょう。こういうことは、普通なれば 金壺眼 かなつぼまなこ のお婆さんか、 辻待 つじまち 人力車夫 じんりきしゃふ が、紹介の労を取るのですが、ホラ、相手方が職業者ではない、身分のある御婦人です。 したが ってポン ぴき 風采 ふうさい くの次第。ハハハハハその秘密な家はただ場所を提供して謝礼を頂くに過ぎませんが、絶対安全を保証する代りには、謝礼金もお安くありません。そこでお客様を選ぶのにこんな手数がかかるという訳です。お分りになりましたか。失礼ですがあなたなれば、充分資格がおありです。御風采といい、御身分といい、それから珍らしい猟奇者でいらっしゃるのだから」
聞くに従って、愛之助は酒の酔が醒めてしまった。この世の裏側の恐しさではない、世にも不思議なポン引紳士にめぐり合った嬉しさにだ。そこで彼は真面目になって、一膝のり出して 細々 こまごま とした談判にとりかかるのであった。
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