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自動車内の曲者煙の如く消え失せること_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:自動車内の曲者煙の如く消え失せること「今度はいつ?」着物を着て、すっかり、身じまいを終った婦人が、甘える調子で尋ねた。「
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自動車内の曲者煙の如く消え失せること


「今度はいつ?」
着物を着て、すっかり、身じまいを終った婦人が、甘える調子で尋ねた。
「来週の水曜日。 差支 さしつかえ はない?」
節穴の視野の外で、男も外套を着ながら答えた。
「じゃ、きっとね。時間は今夜位」
婦人はそう云って、もう縄梯子に足をかけたらしく、例の特殊の音が聞えて来た。
男女は降りてしまって、暫くすると、主婦の咳払いが幽かに聞えた。もう帰ったから降りて来ても大丈夫という知らせである。
青木、品川の両人は 階下 した に降りると、主婦への挨拶もそこそこに、大急ぎで表へ出た。云うまでもなく、もう一人の品川四郎を尾行する為だ。
半町程向うの町角で、二人は今別れて、男は右へ女は左へと歩み去る所であった。気づかれぬ様尾行して行くと、男は近くの電車通りへ出た。だがもう二時を過ぎているので電車のあろう筈はない。時たま徹夜稼ぎの円タクが、広い通りを我物顔に、ピュウピュウと走って行くばかりだ。男はその一つを つかま えて乗込んだ。
まさか尾行を感づいた訳ではあるまいが、この早業に、青木も品川もハッとして、隠れていた場所から電車道へ走り出した。と、うまい 工合 ぐあい に、そこへ一台の空自動車だ。二人は早速それに乗込むと、
「前の車だ。あれを見失わぬ様に、どこまでも尾行してくれ給え」
と命じた。
「大丈夫ですよ。この夜更けに、まぎれる車がないから、めったに見失うことはありゃしませんや」
運転手は心得顔にスタートした。
の如き深夜の大道を、 二筋 ふたすじ の白い光が 雁行 がんこう して飛んだ。 追駈 おっか けである。
青木と品川は、車中に及び腰になって、 傍目 わきめ もふらず前方を見つめていた。数間の向うを怪物の車が走る。その後部のガラス窓にそれらしい中折帽が揺れている。
「アッ、しまった。奴気づいたらしいよ」
品川が叫んだ。先の車の中折帽がヒョイとうしろを振向いたのだ。白い顔がボンヤリと見えた。と思うと、突然、前の自動車の速力が加わった。またたく間に五間十間両車の距離が遠ざかって行く。
「追駈けるんだ。速力は大丈夫か」
「大丈夫でさあ。あんなボロ車。こっちは新型の六気筒ですからね」
走る走る。天地が爆音ばかりになってしまった。
だが十分程も全速力で走ると、とても敵わぬと思ったのか、先の自動車がバッタリ停車した。
「ここはどこだね」
「赤坂 山王下 さんのうした です。止めますか」
「止めてくれ給え、止めてくれ給え」
見ていると、男は車を降りて、賃銀を払うと、そこの横丁へ這入って行く。青木、品川は、云うまでもなく自動車を捨てて男のあとを追った。
だが非常に意外なことには、相手が横丁へ這入ったので、尾行する積りで、ヒョイとその角を曲ると、曲った所に当の男がこちらを向いて立止っていた。
二人はギョッとしてたじろぐ。それを見て男の方から声をかけた。
「あなた方、僕に何か御用がおありなんですか。さい前からあとをつけていらっした様ですが」
飛んでもない変てこなことが起った。よく見ると、まるで人違いなのだ。相手の顔には品川四郎の面影さえない。だが、三浦の家を出てから一度も見失ったことはないのに、いつの間に人が変ってしまったのか、狐につままれた感じである。仕方がないので 詫言 わびごと をして、念の為にあすこにいるあの自動車からお降りなすったのでしょうね。と確めると、そうだとの答えだ。
「変だね。まるで魔法使いみたいだね」
「変装すると云ったって、あんなに顔が変るものじゃないし。……服装はどうだね。赤い部屋で着ていた服はあれだったかい」
「それがハッキリしないんだ。赤い光りの下で、しかも小さな節穴から見たんだからね。似ている様にも思うけれど、オーバーコートの 色合 いろあい なんて、同じのがいくらだってあるからね」
二人は男に別れて、そんなことを話しながら、元の電車道の方へ歩いた。疑問の男をのせて来た自動車は、もう出発して、半丁も向うを走っている。
「ア、しまった」突然品川四郎が叫んだ。「オーイ、その自動車待て」
品川が駈け出すので、青木も理由は分らぬけれど、兎も角彼に習って、車を呼びながら走った。外の自動車で追っかけようにも、さい前彼等が乗って来たのは、とっくに出発して、問題の車のずっと前方に走って居た。
結局、十間も走るか走らぬに思いあきらめる外はなかった。
「どうしてあの車を追駈けたんだ」
小さく遠ざかって行く尾燈を目で追いながら、青木が尋ねた。
「運転手の顔を見てやろうと思ってさ」品川が答える。「あんなに一度も目を離さなかった男が、別人と変っているなんて、あり得ないことだ。ひょっとしたら、あの僕と同じ顔の男が、座席を入れ変って、今の車の運転手になりすまして逃げて行ったのではないかと思ったのだよ。……だが、まさかそんな活動写真みたいな真似もすまいね。別に僕達を恐れて逃げ出さなければならない理由はないのだからね」
で、結局この追跡は不得要領に終った。彼等が自動車を見違えたのか、又は彼の男が故意に 偽瞞 ぎまん を行って彼等をまいてしまったのか、いずれとも断定し兼ねた。つまり狐につままれた感じである。その夜の出来事全体が飛んでもない幻を見ていたのではないかとさえ思われて来るのだ。
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