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品川四郎闇の公園にて媾曳すること_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
时间:
2024-10-24
作者:
destoon
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核心提示:品川四郎闇の公園にて媾曳あいびきすること青木愛之助はそれから一週間ばかり東京にいたが、もう一人の品川四郎の正体については
(单词翻译:双击或拖选)
品川四郎闇の公園にて
媾曳
あいびき
すること
青木愛之助はそれから一週間ばかり東京にいたが、もう一人の品川四郎の正体については、あやふやのまま帰郷しなければならなかった。
赤い部屋で男が「来週の水曜日」と女に約束をしたのを覚えていて、その水曜日を待って、
態々
わざわざ
三浦の家へ出向いて見たが、どうしたのか男も女も影さえ見せなかった。主婦は「今夜という御約束なのに」と不審がっていた。
「やっぱり、あいつはあの自動車に乗っていたらしいね。運転手を身替りに立てたという君の想像が、当っているかも知れない。奴、まさか自分と同じ顔の男が追駈けたとは知るまいが、どうせ悪いことを働いている奴だ。こいつは危いと思って、例の
家
うち
へ来るのを見合わせたのだよ」
青木が云うと、苦労性の品川は非常に心配そうな顔になって、
「それ丈けならいいんだが、……若しや奴は僕達を感づいてしまったのじゃあるまいか、あの時追駈けたのが奴と見分けられない程よく似た男だということを知ってしまったのじゃあるまいか。そうだとすると、これは飛んだ
藪蛇
やぶへび
だよ。相手は悪者だ。僕を身替りに立てて、どんな企らみをするか知れやしない。僕はそれを考えると何とも云えぬ変な気持がする。怖いのだよ」
と、二人の間にそんな会話が取り交されたことだが、この品川の心配が決して
取越
とりこし
苦労ではなかったことが、後に至って思い合わされたのである。
それは兎も角、それから二ヶ月ばかり別段のお話もなく過ぎ去った。その間、青木は一週間位ずつ二度上京しているが、もう一人の品川四郎はどこにもその影を見せなかった。あんな奇怪な人物がこの世に存在したことが、すっかり夢ではなかったかと思われた程だ。だが、品川はそれを逆に考えて、今頃どこかの隅であの男が、品川という絶好な身替りを種に、非常に大がかりな悪事を計画最中なのではないかと、そればかりを苦にしていた。
で、三月のある日、それは青木愛之助の住む名古屋での出来事だが、すっかり忘れていた怪人物が、又々彼の前に姿を現わしたのである。
友達とカフェーで夜を更かして、別れての帰り道であった。青木の家は
鶴舞
つるまい
公園の裏手の郊外といった感じの場所にあったが、季節にしては暖い晩だったし、酔ってもいたので、車にも乗らず態と廻り道をして、彼は木立の多い公園の中をブラブラと歩いて行った。
噴水の
側
そば
を通って、坂道を奥の方へ昇って行くと、森林といってもよい程、大木の繁った箇所がある。その真中に袋小路になって、ポッカリと五六坪の空地があり、そこに坂道を昇った人達の休憩所にと、二つ三つベンチが置いてある。四方を林で取囲まれた公園中での秘密境なので、若い市民達の
媾曳
あいびき
場所には持って来いだ。猟奇者青木は、嘗つてそこで、媾曳の隙見という罪深い楽しみを味った経験を持っている。
それは今も云った袋小路のつき当りにあるのだから、帰宅するのに、何もそこを通ることはないのだが、いたずらな運命の神様が彼を誘ったのか、青木はふとその空地の方へ行って見る気になった。
もう十二時近くの夜更けで、公園に這入ってから殆ど人を見なかった程だから、そこも多分ガランとした空っぽの暗闇だろうと思ったが、闇の魅力、ひょっとして何か素ばらしい発見があるかも知れないという好奇心が、彼をそこへ連れて行った。
ところが、坂を昇り尽して木立の間から、ひょいと見ると、これはどうだ、獲物がある。その方の係りの刑事は、公園の中の一定の場所へ行って、茂みの蔭に寝転んで待っていれば、どんな晩でも一組や二組の媾曳を検挙するのは訳はないとの話だが、成程成程、経験者の言葉は恐ろしいものだと思いながら、青木は立止って、丁度その刑事がする様に、大きな木の幹を
小楯
こだて
に、暗中の人影に目をこらし、耳をすました。
ボーッと白く二つの顔が見える。だが、服装も顔の形も全く分らない。ただ声だけが手に取る様だ。彼等は人がいないと安心して普通の声で話している。
「では暫くお別れです。今夜東京へ帰れば当分来られませんから」
男の声が云う。
「宿でおっしゃったこと、お忘れなくね」女の声が甘える。「あの家へ御手紙を下さるわね。せめて御手紙でも度々下さらなきゃ、あたし我慢が出来ませんわ」
「エエ、精々どっさりね。あなたも忘れちゃいけませんよ。じゃ、これでお別れにしましょう。もう汽車の時間だから」
ボーッとして白いものが、双方から近寄って、ピッタリと密着した。長い長い間密着していて、やっと離れた。
「あたし、
家
うち
に帰るのが、何だか怖くって。……」
「あの人にすまんと云うのでしょう。又始まった。大丈夫ですよ。決して感づきゃしませんよ。先生僕が名古屋へ来ているなんて、まるで知らないのですからね。それに今夜は帰りが遅い筈じゃありませんか。サ、早く御帰りなさい。あの人より先に帰っていないと悪いですよ」
不良青年ではない。言葉の様子では相当の紳士である。相手の女も決してこんな場所で媾曳する様な柄ではない。女が「宿」と云った。そこで逢ってから、男が女を送って来たのか女が男を送って来たのか(地理の関係から云って、多分前の方だが)「宿」で分れ去るに忍びなかったものであろう。
「あの人にすまん」というのは、女に定まった亭主でもあるのか。「あの家へ手紙を下さい」と云ったのを見ると、自宅へ手紙が来ては悪い事情があるのだろう。どう考えても
有夫姦
ゆうふかん
だ。それに、男は東京から態々逢いに来ている。
「イヤハヤ、お安くない事だわい」
まだ何事も気附かぬ青木は、この思いがけぬ収獲に、ひどく嬉しがっていたのだが。……
やがて男女が別れて、男が先に彼の方へ降りて来る様子に、ハッとして、思わず十数歩あと戻りした青木が、丁度常夜燈の下で、ひょいと振り向く
出会頭
であいがしら
に、近づいた男の顔が電燈に照らされて、ハッキリ分った。それが、何という意外なことだ。東京にいるとばかり思っていた、かの品川四郎の顔ではないか。
「ア、品川君」
思わず口をついて出た。
「エ?」
相手も立止ったが、妙な顔をしてジロジロ青木の顔を眺めている。
気拙
きまず
いのだなと思って、何も知らぬ体にして、
「どうしたんだ。今時分こんな所で」
と話しかけても、相手はやっぱりこわばった顔をくずさないで、変なことを云うのだ。
「君は誰ですか。人違いじゃありませんか」
「僕? 僕は君の友達の青木だよ。しっかりしたまえ」
「一体あなたは僕を誰だと思っていらっしゃるのですか」
「知れたこと、品川四郎だと思っているよ」
と云いさして、青木はふと黙ってしまった。久しく忘れていた、恐ろしい事実を思い出したからである。
「品川四郎? 聞いたこともありませんね。僕はそんなものじゃないですよ。………急ぎますから」
袖を払う様にして立ち去る相手の後姿を見守って、青木は呆然と立ちつくしていた。
彼奴
きゃつ
だ、二月前自動車の中から魔法使いの様に消え失せてしまった、あのもう一人の品川四郎だ。何という意外な場所で再会したものであろう。
青木は殆ど無意識にその男の跡を追った。坂を降り切って、噴水のあたりまでも。
だが、考えて見るとこの男は東京へ帰るのだ。停車場へ行くに極まっている。流石の猟奇者も、このままの姿で東京まで尾行する勇気はなかった。それに懐中も乏しいのだ。時計を出して見ると、彼の乗るに相違ない東京行急行の発車までには、やっと駈けつける時間を余すばかりだ。
迚
とて
も一度帰宅して旅装をととのえる余裕はない。
青木は諦めて、無駄な尾行を止してトボトボと家路に向った。
公園を出て、広い新道路を五六丁も行くと彼の邸宅がある。考え考えその道の
半程
なかほど
まで歩いた時、彼はふとある恐ろしい考えに襲われて、ギョッと立ち止ってしまった。
余りに意外な
邂逅
かいこう
だった為か、その時まで、彼は
彼
か
の男の声のことを忘れていたが、そう云えば、姿を見なくとも、あれは赤い部屋でおなじみの、もう一人の品川四郎の声に相違なかったではないか。本当の品川と非常によく似ている様で、どこか違った所のある、あの声に相違なかったではないか。どうして、そこへ気がつかなんだのであろう。と考えて来ると、それに関聯して、ふと相手の女の方の声を思い出した。
「イヤ、あれも聞き覚えのない声ではなかったぞ」
途端、稲妻の様に、ある
戦慄
せんりつ
すべき考えが、ギラッと彼の頭の中にひらめいた。
「馬鹿な、そんなことがあってたまるものか。お前はどうかしているのだ。まるでアラビア夜話みたいに荒唐無稽な妄想じゃないか」
と思い直して見ても、さっきの女の、甘えた声の調子が、耳について離れない。まさかとは思うものの、まさかと思った品川四郎が、公園の暗闇から現われさえしたではないか。彼の全く知らぬ蔭の世界で、どんな意外な出来事が起っているか、分ったものではないのだ。
青木は突然走る様に歩き始めた。遥かに見えている彼の
邸
やしき
の洋館の二階へ目を据えて、息をはずませ、暗闇の小石につまずきながら、恐ろしい勢いで歩き始めた。
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