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一寸だめし五分だめし_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:一寸だめし五分だめしその時、上の空で、悪魔の演説を聞いていた芳江が、何か見たのか、突然「ヒー」と云う様な、恥も外聞も忘れ
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一寸だめし五分だめし


その時、上の空で、悪魔の演説を聞いていた芳江が、何か見たのか、突然「ヒー」と云う様な、恥も外聞も忘れた悲鳴をあげて、一方の壁へ、蜘蛛の様にへばりついてしまった。
「オヤ、どうかしましたか」
男は態とビックリした様子で尋ねたが、彼女が驚くことは最初から予期していたのだ。
「アア、あの床の赤黒い痕ですか。御想像の通り血ですよ。ハハハハ、だが、血は血でも、人間のじゃありません。動物のでもありません。お芝居に使う紅ですよ。ホラこれです。ごらんなさい」
彼は云いながら、ポケットから小さな 膠玉 にかわだま を取り出して、ハシッと [#「ハシッと」はママ] 壁にぶっつけた。膠が破れて、濃い血のりが、その壁が生きた人間の胸ででもある様に、タラタラと流れた。
「ハハハハ、分りましたか。これは僕の大切な武器なんです。空のピストルと血のりの膠玉、この二つの道具で、イザという時には、僕は態と相手に撃たれて、胸のシャツの中でこれをつぶして、死んで見せるのです。その方が相手を殺すよりは、安全だし、興味も深いではありませんか。僕が死んだと思って狼狽する相手の様子を眺めてやる丈けでも。ね、ハハハハ」
男はさもさも面白そうに笑いつづけたが、やっと笑いやむと、又饒舌を続ける。
「と云った丈けでは分らないでしょうが、実は昨晩、丁度あの血の痕のついている辺で、僕はあなたの旦那様の為に殺されたのですよ。旦那様はね、目がくらんでいらしったものだから、僕の上手なお芝居にだまされて、本当に殺人罪を犯したと思って、気違いの様になってしまいなすった。そして、やけくそになって、吉原のバアを呑み歩いていらっしゃる所を、僕の部下のものが御連れして、今ある秘密な場所に、おかくまいしてあるのですよ。つまり、ここでその人殺しが行われた痕なのです。併しね、僕が撃たれたのはお芝居でしたが、ここの家ではお芝居ばかりが行われる訳でもないのです。もっと恐ろしいことも、紅でない血の流れることも、ないとは限りません」男はそこでニヤニヤと大きく笑った。「実を云いますとね、あなたの旦那様は、その本当の血の流れる所を御覧なすったのですよ。ホラ、見えるでしょう。あの庭の大きな松の木によじ登ってね。で、僕はその口留めをする為に、あの人に殺されることにしたのです。そう仕向けたのです。うまく成功しました。そこであの人の犯人と目ざす男は死んでしまい、密告をしようにも相手がなくなったばかりか、あの人自身殺人の大罪を犯したと信じ切って半狂乱の てい なんです。何とうまい方法じゃありませんか。こんな膠玉が、すばらしい二重の効果を上げようとは」
怪物はそこまで云って、じっと芳江の表情を眺めていたが、薄気味の悪い調子で、
「アア、あなた震えていますね、怖いのですか。僕がこんなに何もかも打開けてしまうのが怖いのですか。こうして平気で種明しをする裏には、どんな下心があるかということを見抜いていらっしゃるのですね。あなたは本当に御察しがいい。御想像の通りですよ。しかし、そんなに壁にくっついていなくともよろしい。今すぐという訳ではないのです。 大切 だいじ の獲物をそうむざむざ殺してしまう様な僕ではありません。もっともっとあなたに聞かせて置くことがあるのです。サア、こちらへお寄りなさい」
怪物の 触手 しょくしゅ の様な 猿臂 えんぴ がニュッと延びて、芳江の柔い頸筋を掴み、ねばっこい力強さで、彼の身近に引寄せた。芳江は身体中の力が抜けて、叫ぶことも、抵抗することも出来ず、ただもう悪夢にうなされている気持だった。
「僕は最初からこんな悪党ではなかった。ただ、あの威張り返った科学雑誌社長さまを、からかってやれという位の気持で活動写真の群集に混って、この顔を大きく写して見せたり、ある秘密な家で態と僕の変てこな姿を隙見させたりして喜んでいたのですが、そこへあなたの旦那様というものが出て来た。そして当の品川四郎よりも、僕というものの存在を不思議がり興味を持ち始めたのです。そこで、こいつ一つからかってやれと、あなたと声のよく似た娘を手に入れて、媾曳のお芝居をやって見せた所が、あの人はまんまと引っかかって来たのです。
ね、どうです。すばらしいじゃありませんか。僕もまさかこれ程うまく行くとは思っていなかった。それが、堂々たる科学雑誌の社長様と、探偵好きで猟奇家のあなたの旦那様と、全くおあつらえ向きの稽古台で、首尾よく成功したじゃありませんか。この調子なら何をやったって大丈夫だと、僕は非常な自信を得た。そこで、今までは夢の中で丈けやっていたことを、実行し始めたのです。どんな帝王でも真似の出来ない様な快楽に ふけ り始めたのです。そして、それが世間にバレた時には、ちゃんと罪を引受けてくれる人がある。僕は此の世に籍のない男です。品川四郎の影でしかないのです。つまり僕の罪は凡て品川四郎が負ってくれる訳なんです。なんとすばらしいではありませんか。
快楽って一体何だと御聞きなさるのですか。それは今に、今に分ります。……ところで、お話の続きですが」と彼は一層強く芳江を引寄せて、頬ずりせんばかりにして「そうして、あなたの贋物と媾曳きのお芝居をやっている内に、妙なもんですね、贋物ではあき足りなくなって来た。本当のあなたが欲しくなって来た。でね、あなたの旦那様をあんな目にあわせたのも、一つは僕の秘密をかぎつけられた為でもあったけれど、真底の気持を云うと、僕の邪魔者を追払って置いて、あなたを本当に僕のものにしたかったのですよ。アア、あなた冷い手をして震えてますね。頸筋に こまか い美しい汗の玉が吹出してますね。何て可愛い人でしょう。サ、あちらの部屋に楽しい遊戯の席が準備してあります。行きましょう。……あなた想像できますか。その遊戯がどんな種類のものだか」
そして、哀れな小雀は、このえたいの知れぬ怪物の小脇にしめつけられたまま、別室へと連れられて行った。そこで何事が行われたかは、誰も知らない。だが恐らくは誰もが想像する通りであったに相違ない。我々は嘗つて青木愛之助が、松の梢から望み見た、あの 血腥 ちなまぐさ い遊戯を忘れることは出来ないのだ。
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