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幽霊男_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:幽霊男あり得べからざる事柄が、易々と行われた。先夜幽霊男の一味が、宮崎邸から人間程の大きさの荷物を担ぎ出した。しかも、邸
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幽霊男


あり得べからざる事柄が、易々と行われた。
先夜幽霊男の一味が、宮崎邸から人間程の大きさの荷物を担ぎ出した。しかも、邸内には何一品紛失したものがない。あり得べからざる事だ。
唯一の出入口であるドアの外には、信用出来る書生が張番をしていた。その部屋の中で令嬢雪江が惨殺された。彼女の身辺に近づき得たたった一人の人物は、外ならぬ彼女の実の父親である。父親が娘を殺す。に特別の理由が発見されぬ限り、あり得べからざることだ。
この二つの不可能事が可能である為には、そこに何かしら途方もない秘密が伏在しなければならぬ。理論をおしつめて行くと、たった一つの結論に達する。その外には絶対に解釈のしようがない。だが、それは想像するさえも身の毛のよだつ程恐ろしいことだ。
明智はとるべき手段に迷った。どこから手をつけていいのか分らなかった。そこで、彼は窮余の一策として、得意の変装術で、洋装の老人に扮し、街頭をさまよい始めたのである。或時は盛り場から盛り場へとさすらい、或時は宮崎邸のまわりをうろつき、又或時は例の池袋の怪屋の附近を歩き廻った。目ざすは品川四郎とそっくりの幽霊男である。この男さえ発見すれば、そして、ひそかに尾行することが出来たならば、怪賊の本拠をつきとめ、そこに隠されている大秘密をあばくことも不可能ではないのだ。
宮崎邸に殺人事件があってから、一週間ばかり、彼はそうして、辛抱づよく歩き廻った。そして、ある日のこと、遂に目ざす幽霊男にめぐり合う幸運を掴むことが出来たのである。
とあるレストランで夕食をしたためていた時、背後に異様な気配を感じて、ヒョイと振向くと、そこに品川四郎の顔があった。すんでのことで、うっかり挨拶しそうになったのを、彼はやっとみ殺して、そ知らぬ振りで席を立った。
本物の品川四郎かも知れない。そうでないかも知れない。彼はそれを確める為に、レストランの電話室に這入った。客席からは可成かなり隔っているので、相手に聞かれる心配はない。本物の品川四郎の電話番号を告げて、胸をドキドキさせながら待っていると、果して品川は在宅であった。受話器の向うに、まがいもない科学雑誌社長の声が聞える。二こと三言話して電話を切ると、彼は又元の席に戻って、幽霊男の食事の終るのを待った。無論尾行する積りなのだ。
やがて尾行が始まった。
怪物はレストランを出ると、夜店の並んだ賑かな町を、ブラブラと歩いて行く。食後の散歩であろう。若し捕えようと思えば、町の群集はすべて味方だ、造作もないことである。併し、明智は一幽霊男の逮捕で満足はしない。賊の本拠を確かめたいのだ。あせる時ではない。気永にあとをつける一途いっとだ。
幾度も幾度も町を曲って、怪物は果てしもなく歩いて行く。悪人の用心深さで、彼は町角を曲る毎に、尾行者はないかとうしろを振返る。その都度つど明智が素早く身を隠すと、彼は安心して歩いて行く。だが、何度目かの曲り角で、明智が物蔭に隠れようとする所を、一寸の差で見つけられてしまった。変装はしているものの、相手はすねに傷持つ犯罪者だ。うさんなみぶりを見逃す筈はない。とうとう尾行を発見された。
それは電車通りで、あき自動車が右往左往していた。奴さんきっとタクシーを呼止めるぞ。と見ていると、案の定、一台の車が彼の前に止った。おくれてはならぬと、明智もあとから来た車を呼止める。
「あの車のあとをつけるのだ」
命じながら乗込もうとした明智は、何を思ったのか、咄嗟に思い返して、その車をやり過してしまった。
前の車もすでに発車した。だが、これはどうしたことだ。確かにその車に乗った筈の幽霊男が、町を横切って走っているではないか。つまり彼は乗車すると見せかけて、車内を通って、反対側に飛降りてしまったのだ。自動車の籠抜かごぬけだ。明智は早くもそれを感づいて、うっかり空自動車のあとを追うを免れたのである。
何という素早さ。怪物は道路の向う側で、もう別の自動車を呼止めた。さっきのとは反対の方角に走っている車だ。明智もおくれじと一台の車に飛乗った。幽霊男も今度は籠抜けではない。そこで、自動車の追っかけが始まった訳である。
走りに走っている内に、いつか見覚えのある町を通っていた。初めは何気なく窓外を眺めていた明智も、それが余りに彼の熟知せる道筋と一致しているのに気づいて、「オヤ、これは変だぞ」と思わないではいられなかった。
やがて、先の車は、案の定、その家の前で停車した。その家とは外ならぬ、本当の品川四郎の住居すまいなのだ。
幽霊男は車を降りて、格子戸をあけた。婆やが出迎える。彼は婆やに何か口を利いて、事もなく奥へ消えてしまった。
「ナアンだ。さっきから尾行していたのは、それじゃ本当の品川だったのか」
とがっかりしたが、又思い返すと、どうも腑に落ちぬ所がある。品川なれば何ぜ自動車の籠抜けなぞをしたのか。又、さっき電話口へ出たのは一体何者であったのか。とは云え、若し幽霊男だとすれば、まさか、こんな品川の家なぞへ逃げこむ筈はないのだ。流石の明智も、狐につままれた感じである。
兎も角検べて見ようと、案内を乞うと、応接間へ通された。科学雑誌社員時代に親しみのある応接間だ。畳を敷いた日本座敷に椅子テーブルを並べた、洋風まがいの部屋である。品川四郎はそこのおおソファに腰かけて、客を待受けていた。
「アア、やっぱりあなたでしたね。お分りでしょう。明智小五郎です。僕は大変な失策をやったのです、あなたを例の幽霊男だと誤解してしまって。……しかし、さっき電話口へ出たのはあなたではなかったのですか」
「ヘエ、電話ですって。それは何かの間違いでしょう。僕に電話はかかった覚えはありませんよ」
そんな話をしている時、実に途方もないことが起った。と云うのは、襖の外に、もう一人品川四郎の声が聞えて来たのである。
「俺は夕方から外出なぞしないじゃないか。今俺が帰って来たなんて、お前は奥の間で俺が調べものをしていたのを知らないのか。その帰って来た俺というのはどこにいるんだ」
叱られているのは婆やだ。だが、何という変挺へんてこな叱り方であろう。
明智はさてはとギョッとして、矢庭やにわに立上り、目の前の品川に飛びかかろうとした。
だが張合のないことにはにせの品川は平気で笑っている。何というふてぶてしさだ。
そこへ、襖の外の声のぬしが、血相をかえて飛込んで来た。見ると、一人は自分と寸分違わぬ男、もう一人は見も知らぬ老人だ。
「君達は一体全体何者だ」
彼は居丈高いたけだかに呶鳴りつけた。
「オヤ、これは不思議。貴様、俺の留守宅に忍込んで主人面をしていたんだな。貴様こそ一体何者だ。イヤそれは聞かなくても分っている。貴様だな長い間俺を悩まし続けた怪物は」
今帰宅したばかりの贋の品川が、平然として呶鳴り返した。
分った分った。図々しい幽霊男は、明智の追跡に耐えかねて、咄嗟の思いつきで、本当の品川の家へ逃げ込んだのだ。何という大胆不敵な、併し奇想天外の思いつきであったろう。並べて見ても見分けのつかぬ二人の品川が、お互に相手を贋物だと云い合っているのだ。
その内に、本当の品川が、やっと明智の変装姿を見分けた。
「アア、明智さんじゃありませんか。一体これはどうしたということです。あなたの前にいるのが、例の幽霊男ですよ」
すると、贋の品川も劣らず、まくし立てる。
「オヤ、あなたは明智さんですか。すると、さっきから、私のあとをつけていらっしたのは、僕を幽霊男だと誤解されたのですね。僕こそ正真正銘の品川四郎です。この男は僕の留守を幸いに、僕に化けて何か又悪事を企らんでいたのですよ。サア、こいつを捕えて下さい」
聞いている内に、どちらの云い分が本当だか分らなくなって来る。
「では、君はどうして、籠抜けなぞをして、僕をこうとしたのです」
「私は近頃臆病になっているのです。それに老人の変装で、あなたということが、ちっとも分らなかったものですから、又白蝙蝠一味のものが、何か悪企みを始めたのかと誤解したのです。本当に僕が幽霊男なら、こんな所へ来る筈がありません。ほかにいくらも逃げ場所はある筈です」
云われて見ると、一応はもっともである。明智は二人の品川を間近く眺めながら、その内の一人が白蝙蝠の首魁しゅかいであることは分り切っているのに、さて、どちらをそれと定めかねて、俄かに手出しをすることが出来ないのだ。
だが、この馬鹿馬鹿しいお芝居は長くは続かなかった。明智はふと一案を思いついて、前から家にいた品川を片隅に引っぱって行き、もう一人の品川に聞えぬ様に、囁き声で、山田の変名で雑誌社に勤めていた頃のこまかい出来事を、一つ一つ尋ねて見た。品川はテキパキとそれに答える。もう間違いはない。この男こそ品川四郎だ。
だが、そこにほんの一寸した隙があった。二人が問答に気をとられているに、アームチェーアにおさまっていた幽霊男は、ソッと席を立ち、足音を盗んで、襖の外へ消えて行った。
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