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麻酔剤_猎奇的后果_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:麻酔剤さて、お話の速度を少し早めなければならぬ。同じことをいつまで書いていても際限がないからである。美禰子嬢はそれからど
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麻酔剤


さて、お話の速度を少し早めなければならぬ。同じことをいつまで書いていても際限がないからである。
美禰子嬢はそれからどうなったか。白蝙蝠団の陰謀は見事図に当って、彼女は仮初かりそめの扮装があだとなり、とうとう乞食の群に身を落す運命となった、乞食となり下った伯爵令嬢の不思議にも痛ましき身の上、それを細叙したならば、恐らく一篇の異様な物語が出来上ることであろうが、今はそのいとまがない。
其翌日、美禰子さんの許婚の俊一氏が大阪のホテルで奇怪な死をとげた。無論これも白蝙蝠団の魔手が伸びたので、彼等は令嬢すり替えを看破かんぱし得るものは、許婚の俊一氏の外にはない。この邪魔者を先ず除かないでは、最後の目的である大河原伯爵に対する陰謀に、安心して着手することが出来ぬと考えたのだ。
さて、引続いて起った二つの事件から十日程たって、俊一氏の葬儀も終った頃、大河原首相官邸に突発した奇怪千万な出来事。
ある夕方、非常に長引いた閣議が終って、引上げて行く閣僚達を見送った首相はいつになく疲労を覚えたので、私室に入って、グッタリと椅子にもたれていた。養子俊一氏の変死が、伯爵の私生活に悲しい空虚を作った。彼は首相としての激務に僅かの隙を見出すと、知らぬ間にその空虚へ陥っているのを発見した。
その上彼には、もう一つ変な心懸りがあった。ついさっき、閣議の始まる前に、野村秘書官が囁いた彼の一身に関するある重大な事柄だ。彼はそれを聞いた時、秘書官が気でも違ったか、或は白昼の夢を見ているのではないかと疑った。何を馬鹿なことを云っているかと叱りつけようとした。だが、野村の態度なり言葉なりが、長年人を見慣れた伯爵には、どうしても出鱈目とは思えなかった。
現実の出来事には嘗つて恐れを抱かぬ大政治家も、この妙な悪夢の様な感情を、如何に処分すべきかに困惑した。馬鹿馬鹿しいと一笑に附し去るはたやすい。併し、野村秘書官がまさか気が違ったのではあるまい。俺はあの男の指図した奇妙なお芝居を演じなければならぬのだろうか。
伯爵が思案に耽っている所へ、丁度彼が今まぼろしに描いていた人物が這入って来た。令嬢の美禰子さんだ。
「お紅茶を持って参りました」
美禰子さんがしとやかに云った。
伯爵は何故かギョッとした様に、の娘を見つめた。
「お前美禰子だね。美禰子に違いないね」
「マア、何をおっしゃってますの、お父さま」
令嬢は鈴の様に笑って見せた。
伯爵は娘の手から紅茶の容器を取って、口へ持って行きながら、
「お前、これをお父さまに飲ませるのだね」
と底力のある声で、念を押す様に云った。
すると今度は美禰子さんが、サッと青ざめて、非常な狼狽の様を示したが、流石に一瞬間で元の冷静を取戻した。
「マア、変なことばっかり。お父さま、今日はよっぽど、お疲れの様ですこと」
伯爵はやっぱり美禰子さんを見つめたまま、唇の隅に薄気味悪い微笑を浮べながら、紅茶茶碗に口をつけた。
厚い唇の前で、紅茶茶碗が段々斜めになり行く。喉仏がゴクリゴクリと上下に動く。またたく内に、伯爵はそれをすっかり飲みほしてしまった。
美禰子さんは、キョロキョロと部屋の中を見廻しながら、何故か落ちつかぬ様子で、伯爵の前の椅子に腰かけていた。顔は真青になり、押えても押えても、小刻みに震えて来るのをどうすることも出来ない体である。
丁度そこへ、野村秘書官が這入って来た。彼は伯爵が既に紅茶を飲みほしたことを知ると、素早く令嬢と妙な目くばせをして、すぐ何気ないていを装いながら、伯爵の前へ進んで行った。
「唯今内務大臣から御使おつかいです。至急御披見が願い度いということでした」
差出す一通の書状。伯爵はそれを開封して読み始めたが、二三行を進まぬ内に、彼の額に妙な曇りが現われ、手紙を持つ手が力なく垂れて行った。
「どうかなさいましたか、閣下、御気分が悪いのですか」
「お父さま。お父さま」
秘書官と令嬢とが同時に駈け寄って、伯爵の巨躯きょくを支える様にしたが、伯爵は已に昏々こんこんと不自然な眠りに陥っていた。
秘書官はそれを見ると入口に走って、邸内の人々を呼ぶのかと思うと、そうではなく、却って内部からドアに鍵をかけてしまった。
伯爵はいつの間にか椅子を辷り落ちて、床の上に横わっていた。
「うまく行ったわねえ」
令嬢美禰子さんが、お芝居の毒婦の様な言葉を使った。
「君の腕前には感心しましたよ。四人目がかたづいたと云うものです」
野村秘書官が云った。四人目とは白蝙蝠団の人名表の第四番目を意味するのだ。
ああ、何という奇怪千万な事実であろう。賊は内閣総理大臣をたおすのに、先ずその令嬢の入れ替えを行い、次に養子の俊一氏を亡きものにし、いつの間にか野村秘書官まですり換えてしまったのだ。本物の野村氏は、多年伯爵の恩顧おんこを受けた清廉潔白の士、犯罪団に引入れられる様な人物ではない。ここにいる秘書官は、野村氏と寸分違わぬ別人に極っている。
「サア、手を貸して下さい」
偽秘書官が偽令嬢をうながして、たわいなく眠りこけた伯爵の身体を一隅の押入れの前まで引張って行った。秘書官が鍵でその戸を開く。伯爵の身体がその中へ押し込まれる。
「あとは僕一人で大丈夫。あなたは窓の外を見張っていて下さい」
彼はそう云い捨てて、真暗な押入れの中へ、姿を消した。そこにはねて持込んで置いた寝棺の様な箱がある。その中には白蝙蝠団から派遣された偽の大河原伯爵が忍び込んでいるのだ。偽伯爵が箱を出る。偽秘書官と二人で本物の伯爵を箱に入れる。蓋をして鍵をかける。これで難なく総理大臣のすり替えが完結するのだ。本物の伯爵をとじこめた箱はそのまま押入れに隠して置いて、機を見て持出す手筈になっている。
やみの中でゴトゴトやっていた偽秘書官が、やがてそこを立出でると、あとに随って現われたのは、不思議不思議、今麻睡薬で眠りこけた伯爵が、ケロリと目覚めて出て来たとしか見えぬ、どこからどこまで大河原首相そのままの人物だ。
「マア、お父さま」
美禰子さんが、驚歎の叫びを発して、その人物に近づいて行った。
「ウン、美禰子か」
偽伯爵は、登場早々もうお芝居を始めた。
「で、閣下、唯今の内務大臣への御返事は如何致しましょうか」
偽秘書官がしかつめらしく云った。偽物三幅対さんぷくついだ。
「そうだな。手紙の返事はよろしいが、一つ警視総監に電話をかけてくれ給え、もう退庁していたら官邸へかけるのだ。そして、総監が心酔している民間探偵の明智小五郎を同道して、すぐここへ来る様に。ア、待ち給え。一寸重大な事件が起ったので、腕利きの部下を五六名同道する様に云ってくれ給え。相手は中々手強い奴だと云ってね」
首相自ら斯くの如き異様な命令を発するとは、嘗つて前例のないことだ。併し、どうせ相手は偽総監、偽素人探偵だ。同類からの電話なら飛んで来るに極っている。
だが、伯爵は何の為に総監や明智を呼ぶのであろう。二人丈けならまだ分っているが、屈強の警官数名を伴ってこいというのは、どうも変だ。一体全体ここで何を始める積りであろう。令嬢美禰子さんは不思議に思わないではいられなかった。そんな事は予定の筋書になかったからだ。
併し、野村秘書官は、何の不審をも抱かぬ体で、ドアをあけて、電話室へ立去ったが、間もなく引返して来て、
「総監はすぐお出でになります」と報告した。
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