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恶灵物语(2)

时间: 2021-08-26    进入日语论坛
核心提示: とびらもない門をはいって行くと、草の中に古い木造の洋館が建っていた。 こちらの足音を聞きつけたのであろう。玄関のドアが
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 とびらもない門をはいって行くと、草の中に古い木造の洋館が建っていた。
 こちらの足音を聞きつけたのであろう。玄関のドアがひらいて、赤い光の中に小柄な老人のシルエットが浮き出した。赤い光はチロチロ動いていた。老人は燭台(しょくだい)を自分のからだのうしろに持って、こちらをじっと見ているらしかった。
「大江蘭堂先生でしょうな? どうぞ、おはいり下さい。お待ちしておりました」
 何かの鳥がさえずっているような、妙に若々しい声であった。
「わたしがバテレンじじいです。よくおいで下さった。さア、こちらへおはいりください」
 手をとらんばかりにして、廊下のドアをひらき、書斎らしい洋間に(しょう)じ入れた。
 部屋にも電燈はなかった。爺さんはあたりの様子を見せるように、太い蝋燭(ろうそく)の燭台をふりてらしてから、それを机の上に置いた。
 書棚にえたいの知れぬ古本がならんでいた。壁には、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図の大きな複製がベタベタ貼りつけてあった。村役場にあるような粗末な木机と木の椅子(いす)、蘭堂はその一つにかけさせられ、爺さんも向かいあって腰かけた。
 これはすばらしい。これはもう、そのまま怪談の材料になる。蘭堂はホクホクしていた。爺さんも蘭堂に会えたのが、ひどく(うれ)しいらしく、
「よく来て下さった。なんでもお見せします。なんでもお話しします。じゃが、その前に一ぱい如何(いかが)ですな。上等のコニャックがあります」
 そういって、本棚の古本のあいだに入れてあった、変な形の酒瓶(さかびん)とグラスを二つ持って来て、酒をついだ。蘭堂がグラスを取って、()いで見ると、なるほどすばらしいコニャックだ。チビリとやって、爺さんの顔を見ていると、爺さんもチビリとやって、ニヤニヤと笑った。
「人形師の秘密がお知りになりたいのですな、小説にお書きになる?」
 だんだん蝋燭の光が目に慣れて来た。爺さんは、六十五六歳に見えた。黒いダブダブの洋服を着て、()せて、顔におそろしく(しわ)があった。目は澄んでいた。茶色の(ひとみ)だった。顔にも老年のシミが目立っていた。
「マネキン人形は鋸屑(おがくず)と紙を型にはめて、そとがわにビニールを塗るのですか」
「そういうのもあります。いろいろありますよ。しかし、わたしは、ショーウィンドウのマネキンなんか造りません。そんなものは、弟子(でし)たちにやらせます。わたしは本職の人形師です。子供の時分に、安本亀八に弟子入りしたこともある。日本式の生人形(いきにんぎょう)ですよ。(きり)の木に彫るのです。上から胡粉(ごふん)を塗ってみがくのです。これは今でもやりますがね。しかし、なんといっても(ろう)人形ですね。ロンドンのチュソー夫人の蝋人形館のあれです。わたしは今から二十年ほど前に、ロンドンへ行って、あの人形を見て来ました。日本の生人形も名人が造ったやつは生きてますが、チュソー夫人の蝋人形と来たら、まるで人間ですね。生きているのですよ。死体人形なら、ほんとうに死んでいるのですよ。大江先生はロンドンへおいでになったことは……?」

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