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恶灵物语(7)

时间: 2021-08-26    进入日语论坛
核心提示:「ひどいいたずらをしますね。可哀そうにこのお嬢さんは、箱の中で、さぞ息ぐるしかったことでしょう」 蘭堂はそう云いながら、
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「ひどいいたずらをしますね。可哀そうにこのお嬢さんは、箱の中で、さぞ息ぐるしかったことでしょう」
 蘭堂はそう云いながら、美しい裸女(らじょ)の手をとって、引き起し、箱のそとへ出るのを手伝ってやった。
「ごめん、ごめん。これが怪奇小説家のあなたには、何よりのご馳走(ちそう)だと思いましてね。実はこの女は、わたしのモデルなんですよ」
 だが、ふしぎなことに、この美しいモデル娘は、少しも裸体をはにかむ様子がなかった。無言のまま、向うの衝立(ついたて)(かげ)にはいって、しばらくすると、素肌の上にガウンを着たらしい様子で出て来た。
「先生、まだ心臓が静まりますまい。こういうときは一ぱいやるに限ります。この子に(しゃく)をさせて、あちらで又一ぱいやりましょう」
 老人形師は燭台を持って先に立ち、その次にガウンの美女、あとから蘭堂がつづいた。
 以前の書斎で、それぞれ椅子にかけると、またコニャックの酒盛(さかも)りがはじまった。心がときめいているので、酒の(まわ)りが早く、蘭堂はじきに酔い心地になった。
 美女は(ほと)んど口をきかなかった。何か云われると、ニッコリ笑って(うなず)いたり、かぶりを振ったりするばかりであった。しかし、彼女も酒は少しずつ飲んだ。やがて目のふちがポーッと赤くなって来た。
 娘は人形から人間になって、またもとの人形に戻っていくように感じられた。生きた人間にしては余りに美しすぎた。ホフマンのオリンピア嬢はこんな美しさだったかも知れない。()し生きているとすれば――いや、生きているにちがいないのだが――この皺くちゃの老人が、どうしてこんな美しい女を手に入れたのか、ふしぎでたまらなかった。
「このモデルの娘さんは、なんとおっしゃるのですか」
最上令子(もがみれいこ)と云います。これをモデルにして、寸分ちがわない美人人形を造りたいのです。いま、からだの調子を見ているのですよ。最良の状態のときに、石膏をぬりつけるのです」
 令子はパチッとまばたきをした。まるで自動人形のようなまばたきであった。人間らしくなくて、人形とそっくりの娘。そこからこの世のものならぬ、あやしい美しさが発散した。人間らしくないところに、名状(めいじょう)しがたい強烈な魅力があった。
「令子さん、あなたは、自分とそっくりの人形ができるのを、怖いとは思いませんか」
 蘭堂ははじめて娘に話しかけた。
「いいえ」
 彼女はかすかに微笑(ほほえ)んで、小さな声で答えた。人形が何かの仕掛けで口をきいているようであった。シャンとした姿勢で椅子にかけ、顔は正面を向いたまま、少しも動かさなかった。
 蘭堂と老人形師とは、この美女をかたわらにして、一時間近く、コニャックを傾けながら、人形の話をつづけた。
「それじゃ、令子さんをモデルにして仕事をはじめたら、知らせてください。ぜひ見たいのです。約束しましたよ」
 恐ろしく酔って、ろれつが怪しくなっていた。そして、二人に見送られてそとに出たのだが、そのとき、玄関の戸口で、令子の手が蘭堂のからだにさわった。意味ありげにさわった。
 彼は暗い町に出て、電車の駅の方へヨロヨロと歩きながら、その感触を思い出していた。ふと、若しやと気づいたので、さわられた(がわ)のポケットに手を入れて見ると、小さな紙きれがはいっていた。街燈の下まで急いで、その紙きれを調べると、鉛筆で次のような走り書きがしてあった。
「この爺さんは大悪人です。助けて下さい。わたしは殺されます」

【附記】これも一挙掲載で、私の次の発展篇を角田喜久雄(つのだきくお)君、解決篇を山田風太郎(やまだかぜたろう)君が執筆した。

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