斯様にして今夜の話手の、物凄くも奇怪極まる身の上話は終った。彼は幾分血走った、そして白眼勝ちにドロンとした狂人らしい目で、私達聴者の顔を一人一人見廻すのだった。併し誰一人之れに答えて批判の口を開くものもなかった。そこには、ただ薄気味悪くチロチロと瞬く蝋燭の焔に照らし出された、七人の上気した顔が、微動さえしないで並んでいた。
ふと、ドアのあたりの垂絹の表に、チカリと光ったものがあった。見ていると、その銀色に光ったものが、段々大きくなっていた。それは銀色の丸いもので、丁度満月が密雲を破って現れる様に、赤い垂絹の間から、徐々に全き円形を作りながら現われているのであった。私は最初の瞬間から、それが給仕女の両手に捧げられた、我々の飲物を運ぶ大きな銀盆であることを知っていた。でも、不思議にも万象を夢幻化しないでは置かぬこの「赤い部屋」の空気は、その世の常の銀盆を、何かサロメ劇の古井戸の中から奴隷がヌッとつき出す所の、あの予言者の生首の載せられた銀盆の様にも幻想せしめるのであった。そして、銀盆が垂絹から出切って了うと、その後から、青竜刀の様な幅の広い、ギラギラしたダンビラが、ニョイと出て来るのではないかとさえ思われるのであった。
だが、そこからは、唇の厚い半裸体の奴隷の代りに、いつもの美しい給仕女が現れた。そして、彼女がさも快活に七人の男の間を立廻って、飲物を配り始めると、その、世間とはまるでかけ離れた幻の部屋に、世間の風が吹き込んで来た様で、何となく不調和な気がし出した。彼女は、この家の階下のレストランの、華やかな歌舞と乱酔とキャアという様な若い女のしだらない悲鳴などを、フワフワとその身辺に漂わせていた。
「そうら、射つよ」
突然Tが、今までの話声と少しも違わない落着いた調子で云った。そして、右手を懐中へ入れると、一つのキラキラ光る物体を取出して、ヌーッと給仕女の方へさし向けた。
アッという私達の声と、バン……というピストルの音と、キャッとたまぎる女の叫びと、それが殆ど同時だった。
無論私達は一斉に席から立上った。併しああ何という仕合せなことであったか、射たれた女は何事もなく、ただこれのみは無慚にも射ちくだかれた飲物の器を前にして、ボンヤリと立っているではないか。
「ワハハハハ……」T氏が狂人の様に笑い出した。
「おもちゃだよ、おもちゃだよ。アハハハ……。花ちゃんまんまと一杯食ったね。ハハハ……」
では、今なおT氏の右手に白煙をはいているあのピストルは、玩具に過ぎなかったのか。
「まあ、びっくりした……。それ、おもちゃなの?」Tとは以前からお馴染らしい給仕女は、でもまだ脣の色はなかったが、そういいながらT氏の方へ近づいた。
「どれ、貸して御覧なさいよ。まあ、ほんものそっくりだわね」
彼女は、てれかくしの様に、その玩具だという六連発を手にとって、と見こうみしていたが、やがて、