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小林くんと、だんいんの木村くんが、おばけやしきのせいようかんのちかしつで、にんげんほどもある、大きなまっかなカブトムシに出あいました。
ふたりは、ちかしつのすみで、そのおそろしいかいぶつを見つめていました。かいぶつをてらしている二つのかいちゅうでんとうのわが、ぶるぶるふるえています。
キーッ、キーッと、なんともいえないするどい音がしました。大きなカブトムシのなき声です。そのたびに、あのとんがった口が、ぱくぱくひらくのです。
大きなカブトムシは、長い六本の足を、きみわるく、がくん、がくんとうごかしながら、ちかしつの中をぐるぐると歩きまわりました。
しばらく歩きまわったあとで、いよいよこちらに近づいてきました。カブトムシのせなかは、まっかにてらてらと光っています。ときどき、大きなはねをひらいて、ぶるんとはばたきのようなことをします。そのたびにおそろしい風がおこるのです。もう、二メートルほどに近づいてきました。とび出した大きな目が、ぎょろりと、ふたりをにらんでいます。
いまにもとびかかってくるかと、ふたりは思わずみがまえました。カブトムシは、あと足をまげ、中の足とおしりでちょうしをとって、ぐうっとたち上がり、まえ足をもがもがやっています。きみわるいおなかが、すぐ目のまえに見えました。あのまえ足でつかみかかってくるにちがいないと、いよいよみをかたくしていますと……。
ああ、そのとき、じつにおどろくべきことがおこりました。カブトムシのおなかの中に、ぽかんと、四かくいあながあいたのです。四かくいふたのようなものが、下の方へひらいて、そのふたが、すべりだいのように、ゆかにとどいたのです。すると、おなかの中から、なにかもごもごと、うごめき出してきたではありませんか。
おなかの四かくいあなからはい出してきたのは、長さ五十センチぐらいの、まっかなカブトムシでした。大カブトムシのはらから、中カブトムシが出てきたのです。まさか、子どもを生んだわけではないでしょう。大カブトムシは、プラスチックかなにかでできている作りものかもしれません。そのはらから出てきた中カブトムシも、五十センチもあるのですから、きっと作りものなのでしょう。
中カブトムシは、ゆかにたれたふたのすべりだいをはいおりて、そのへんをぐるぐると歩きまわりました。
大カブトムシのほうは、そのまま、ごろんとあおむけにひっくりかえって、まるでしがいのようにじっとしています。
大きなセミのぬけがらみたいです。
中カブトムシは、ちかしつをぐるぐるまわったあとで、ふたりのまえへ来ると、ぐうっとたち上がりました。大カブトムシとおなじことをするのです。また、おなかに、ぽかんとあながあきました。そして、そこから、こんどは十五センチぐらいの、かわいいカブトムシがはい出してきました。
かわいいといっても、十五センチですから、ほんとうのカブトムシのなんばいもある、からだじゅうまっかなおばけカブトムシです。中カブトムシのほうは、また、セミのぬけがらのように、ごろんところがっています。
十五センチの小カブトムシは、ちょこちょことそのへんをはいまわっていましたが、やがて、ふたりのまえに来ると、またしてもあと足でひょいとたち上がりました。
そして、おなじことをくりかえしたのです。十五センチのカブトムシのおなかに、四センチほどの四かくいあながあいて、そこから、こんどは、ほんものとおなじくらいの大きさのまっかなカブトムシが、ゆかの上にすべり出しました。
ところが、この小さいカブトムシは、十五センチのカブトムシがぬけがらになってころがってしまっても、すこしもうごかないのです。
ゆかにおちたまま、じっとしています。これは、しんでいるのでしょうか。
それにしても、なんてかわいらしく、うつくしいカブトムシなのでしょう。いままでの大カブトムシとちがって、これは、まっかな色がルビーのようで、からだの中まですきとおっています。かわいらしい二つの目は、まるでダイヤのようにかがやいています。
「あっ。」
木村くんが、びっくりするような声をたてました。そのとき、むこうのほらあなの中から、なにか黒いものがはい出してきたからです。
それは、あなから出ると、すっくとたち上がりました。にんげんです。黒いマントをきた、せいようあくまのような、おそろしい人です。
「わははは……。小林くん、ひさしぶりだなあ。わしをわすれたかね。ほら、いつか『おうごんのとら』のとりっこで、ちえくらべをしたまほうはかせだよ。」
小林くんは、思わずまえにすすみ出ました。
「あっ、それじゃ、あのときの……。」
「わははは……。こんどもきみたちは、まんまとわしのけいりゃくにかかったね。」