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小林くんと、木村くんと、ユウ子ちゃんと、井上くんと、ノロちゃんの五人は、ルビーのカブトムシをとりかえすために、まほうはかせのすみかのちか室へはいっていって、いろいろなおそろしいめにあいました。ちか室には広いへやがあって、五人がそこへはいると、へやのまん中に、むくむくとみょうなかいぶつがあらわれました。
たまごに目と口をつけたような、おかしなやつです。それが、見るまにだんだん大きくなり、おとなの三ばいもあるような大にゅうどうになってしまいました。そして、
「わははははは……。」
と、かみなりのようなわらい声が聞えました。
みんなは、思わずもと来た方へにげだしましたが、せまい入口にはいこもうとして、ふと、うしろを見ますと、おやっ、あのかいぶつは、どこへ行ったのか、かげも形もなくなっていました。かいちゅうでんとうでよくしらべてみましたが、へやは、まったくからっぽで、なにもないのです。
四方のかべはかたいコンクリートで、どこにも出口はありません。
みんなは、いよいよきみがわるくなってきました。
「へんだなあ。あいつ、けむりのようにきえてしまったよ。」
ノロちゃんが、とんきょうな声でいいました。
「あっ、ごらん。なんだか、動いてる。」
またしても、じめんから、ぶきみなものがわき出してきました。まっさおなものです。それが、かおからかた・はら・こしとせり出して、おとなぐらいの大きさになりました。
「あっ、せいどうのまじんだ。」
小林くんがさけびました。ずっと前に、少年たんていだんがたたかった、あのおそろしい、せいどうのまじんと、そっくりなのです。
せいどうでできたような、青いやつです。耳までさけた口で、にやにやわらっています。それが見る見る大きくなって、やっぱりおとなの三ばいほどになりました。あたまがてんじょうにつかえています。
「ギリリリリ、ギリリリリ……。」
はぐるまの音がします。せいどうのまじんの中に、はぐるまがしかけてあるのでしょうか。
「わはははは……。ちんぴらども、よく来たな。きみたちのさがしていた赤いカブトムシは、このわしが持っている。ほら、ここにあるよ。」
まっさおなきょじんは、おそろしい声でそういうと、耳までさけた口をぱっくりあけました。
三日月がたの、まっ黒なほらあなのような口です。
その口から、ぺろぺろと赤いしたを出しました。そのしたの上に、まっかなカブトムシが乗っているではありませんか。
せいどうのまじんは、口の中に、ルビーのカブトムシをかくしていたのです。少年たちはそれを見ると、思わず、「あっ。」とさけびました。しかし、あい手はおそろしいかいぶつです。とりかえすことは、とてもできそうにありません。
「わははは……。これがほしくないのかね。おくびょうなちんぴらどもだな。くやしかったら、わしのかおまでのぼってきてみろ。そして、わしの口の中から、これをとり出せばいいのだ。わはははは……。そのゆうきが、きみたちにあるかね。」
せいどうのまじんは、少年たちをばかにしたように、大きなからだをゆすってわらうのでした。
「ちくしょう。みんな来たまえ。」
おとうさんから、けんどうをならっている、井上一郎くんはそうさけぶと、いきなり、かいぶつの右の足にしがみついていきました。
あいては、おとなの三ばいもあるきょじんです。まるでこれは、すもうとりの足に赤んぼうがしがみついているようです。
そのとき、ガラガラガラッという、おそろしい音がして、あたりが、ぽっと明るくなりました。やみになれたみんなの目には、まぶしくて、目をあけていられないほどの明るさです。
いったい、なにごとが起ったのでしょう。やっと目を開いてみますと、ふしぎふしぎ、ちか室のてんじょうがなくなっているではありませんか。
てんじょうがきかいじかけで、両方へ開くようになっていたのです。上には、青空が見えています。たいようの光が、さんさんとあたりにかがやいています。
「あっ、たいへんだ。井上くんが……。」
小林くんが、びっくりしてさけびました。ほんとうに、たいへんなことが起っていたのです。
ごらんなさい。せいどうのまじんのからだが、すうっとちゅうにういたかと思うと、そのまま、ふわふわ空へまい上がっています。足にしがみついた井上くんも、いっしょにつれたままです。
これも、まほうはかせのまほうでしょうか。
それにしても、これから、いったいどんなことが起るのでしょう。