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小林くんと木村くんと、ユウ子ちゃんと井上くんと、ノロちゃんの五人は、ルビーのカブトムシをとりかえすために、世田谷区のさびしい原っぱの、ふしぎなほらあなへはいっていきました。
そのほらあなの中には、ふつうのトラの百ばいもある、おばけのトラがねそべっていて、大きな口へ、五人をのみこんでしまいました。
しばらくして気がついてみると、まだ、トラのしたの上にころがったままで、いぶくろの方へのみこまれていくようすもありません。井上くんは、しっかりにぎりしめていたかいちゅうでんとうで、おばけののどのおくをてらしてみました。
すると、このトラののどのおくには、しょくどうも、いぶくろも、なにもないことがわかりました。
くびだけのトラだったのです。もちろん、いきたトラではなくて、きかいじかけの作り物です。すいよせられたと思ったのは、どこかうしろの方から、大きなせんぷうきのようなもので、ふきつけられたのでしょう。
井上くんは、トラの口から外へ出ようとしましたが、もう口はとじられていて、どうしてもあけることができません。
しかたがないので、小林くんとそうだんして、おくの方へ行ってみることにしました。トラののどのおくは、いままでとおなじコンクリートのほらあなです。かいちゅうでんとうでてらしながら、そこをすすんでいきますと、ばったり行きどまりになってしまいました。
「あっ、ここにドアがあるよ。」
ひとりが、やっととおれるほどの小さいドアです。井上くんが、そのドアのとっ手をつかんでひっぱると、なんなくあきました。まるで、きんこのとびらのように、ひどくぶあつい、がんじょうな鉄のドアです。
五人は、その中へはいりました。すると、ふしぎなことに、そのおもいドアが、すうっと、ひとりでにしまってしまったではありませんか。
井上くんはおどろいて、もう一どあけようとしましたが、こんどは、いくらおしてもびくともしません。それにドアのうちがわには、とっ手もなにもなく、すべすべした鉄のいたです。
「おやっ。ここは、どこにも出口のないまるいへやだよ。」
それは、たたみ二じょうくらいの、いどのそこのようなまるいへやでした。
五人は、コンクリートのつつの中にとじこめられてしまったのです。かいちゅうでんとうでてんじょうをてらしてみると、まるいつつは、ずっと上の方へつづいています。まったくいどのそことおなじです。
「おや、あの音はなんだろう。」ノロちゃんが、おびえた声を出しました。
ほんとうに、へんな音がしています。とおくで、モーターがまわっているような音です。
そのとき、かいちゅうでんとうでてんじょうをてらしていた井上くんが、
「あっ、たいへんだっ。」
とさけんだので、みんなびっくりして、その方を見上げました。
じつにおそろしいことが、おこっていたのです。ごらんなさい。てんじょうから、鉄のふたのようなものが、じりじりとおりてくるではありませんか。
まるいつつのうちがわへ、ぴったりはまったあつい鉄のふたです。それが、しずかにおりてくるのです。
鉄のふたは、モーターの力で、すこしのくるいもなくおりてきます。ああ、もう手をのばせばとどくところまでおりてきました。
「みんな、手をのばして、力をあわせて、あれをささえるんだ。でないと、ぼくたち、おしつぶされてしまうよ。」
小林くんはそういって、まず、自分が両手を上げました。
みんなも、そのまねをして、両手を上げて、鉄のふたをおしもどそうとしました。しかし、それは、ひじょうにおもい鉄のかたまりらしく、五人の力では、とてもささえきれません。じりじり、じりじりと、おりてくるのです。それにつれて、ささえている手が、だんだんさがり、とうとう鉄のふたは、みんなのあたまにくっつくほどになりました。
もう、しゃがむほかはありません。そのつぎには、すわってしまいました。それでもまだ、鉄のふたはおりてくるのです。もう、すわっていることもできないようになり、みんなはあおむけにねころんで、両手と両足でささえようとしましたが、やっぱりだめです。なん百キロというおもさの鉄が、ねているかおのすぐそばまでおりてきました。
ユウ子ちゃんは、なきだしました。ノロちゃんもなきだしました。
「たすけてくれえ……。」
井上くんと木村くんが、かなしい声でさけびました。小林くんさえ、なきだしたくなるほどでした。
ああ、五人は、いったいどうなるのでしょう。