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ユウ子ちゃんは、まほうはかせにうまくだまされて、赤いカブトムシのかくしばしょを見つけられてしまいました。
そこは、さびしい原っぱですし、あい手はおとなのまほうはかせ。こちらは、小さい子どもですから、どうすることもできません。とうとう、ルビーのカブトムシを、とりあげられてしまいました。
「さあ、こんどは、きみたちがさがす番だよ。わしが、このカブトムシを、ふしぎなばしょへかくすからね。うまく見つけ出してごらん。
は、は、は、は……。かわいそうに、なきべそをかいているね。よしよし、それじゃ、かくしばしょのひみつを、きっと、きみにおしえてあげるよ。まっているがいい。」
まほうはかせは、そういって、どこかへたちさってしまいました。
それから三日めの、おひるすぎのことです。ユウ子ちゃんが、うちのにわであそんでいますと、赤いゴムふうせんが、空からふわふわとおちてきました。
どこかの子どもが、ふうせんの糸をはなして、空へとび上がったのが、力が弱くなっておちてきたのでしょう。
ユウ子ちゃんがそう思って、赤いふうせんをじっと見ていますと、やがてそれは、すぐ目の前のじめんにおちました。
ふうせんには糸がついていて、その糸のはしに、白いものがくくりつけてあります。ユウ子ちゃんは、なんだろうと思って、それをひろってしらべてみました。
それは、紙をこまかくおりたたんだものでした。ていねいにのばしてみると、その紙には、こんなへんなことが書いてあります。
五月二十五日午後三時二十分、一本スギのてっぺんからはいれ。おそろしい番人に注意せよ。
まほうはかせ
「あらっ、まほうはかせからの手紙だわ。」
ユウ子ちゃんは、むねがどきどきしてきました。
まほうはかせは、このあいだのやくそくをまもって、ユウ子ちゃんに、カブトムシのかくしばしょをおしえてくれたのかもしれません。
ユウ子ちゃんは、すぐにその紙をもって、電車に乗って麹町の明智たんていじむしょをたずね、小林しょうねんにそうだんしました。
「五月二十五日といえば、あさってだね。あさって、一本スギのところへ行けばいいんだね。一本スギって、なんだか聞いたことがあるよ。あっ、そうだ。木村敏夫くんの家のそばの、まほうはかせのばけものやしきのむこうに、たしか、一本スギっていうのがあった。木村くんに、でんわで聞いてみよう。」
でんわをかけますと、やっぱりそこに、一本スギという、高いスギの木があることがわかりました。
そして、五月二十五日午後三時に、小林くんたち五人のだんいんが、一本スギのある原っぱへやって来ました。
五人というのは、小林だんちょうとユウ子ちゃんと、木村敏夫くんと、それから、だんいんの中でいちばん力の強い井上一郎くんと、野呂一平くんでした。一平くんは、ノロちゃんというあだ名で、おくびょうものだけれども、すばしこくて、よく気のつく子でした。
「一本スギのてっぺんからはいれって、どういういみだろう。」
小林くんがくびをかしげていますと、ノロちゃんが、とんきょうな声で、
「きっと、てっぺんにあながあいているんだよ。そこからはいるんだよ。ぼく、のぼってみようか。」
といって、こしにまきつけていた長いなわをほどき始めました。
ノロちゃんは、木のぼりのめいじんで、きょうは、スギの木にのぼらなければならないだろうと思って、そのよういをしてきたのです。
ノロちゃんは、なげなわもじょうずでした。その長いなわを、くるくるとまわして、ぱっとスギの木の高いえだになげかけました。そして、一方のはしを、自分のからだにしばりつけ、一方のはしを、みんなにひっぱってもらうのです。
つなひきみたいに、みんながなわをひっぱると、ノロちゃんはそれを力にして、ふといスギのみきを、するするとのぼっていきました。
そして、下のえだまでのぼりつけば、あとは、えだからえだへとつたっていけばいいのです。
ノロちゃんは、とうとう、スギの木のてっぺんまでたどりつきました。
そして、しばらくそのへんをさがしていましたが、
「なんにもないよう。あななんて、どこにもあいていないよう。」
とさけぶ声が、はるかにきこえました。これは、どうしたわけでしょう。
「てっぺんからはいれ。」といったって、あながなければ、はいれないではありませんか。
ノロちゃんは、五分ほども木のてっぺんで、じっとしていましたが、やがて、なにを思ったのか、とんきょうな声で、
「わかったよう。あれだよう、あれをごらん。」
とさけんで、原っぱの一方をゆびさしてみせるのでした。そこには、たいようの光をうけて、一本スギのかげが、長々とよこたわっていました。
みなさん、ノロちゃんは、いったいなにに気づいたのでしょうか。