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蒙面的舞者 三(1)

时间: 2022-04-03    进入日语论坛
核心提示:三 私は生れてから、あのような妙な気持を味(あじわ)ったことがありません。それは、まっくらな部屋なのです。そこの、寄木細工
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 私は生れてから、あのような妙な気持を(あじわ)ったことがありません。それは、まっくらな部屋なのです。そこの、寄木細工の(なめら)かな床の上を、樹の肌を(たた)いている無数の啄木鳥(きつつき)のように、コツコツコツコツと、不思議なリズムをなして、私達の靴音が走っています。そして、ダンス伴奏にはふさわしくない、(むし)ろ陰惨な、絃楽またはピアノのレコードが、地の底からのように響いています。目が闇になれるに従って、高い天井の広間の(うち)を、暗いため一層数多く見える、沢山の人の頭が蠢いているのが、おぼろげに見えます。それが、広間のところどころに、巨人のように屹立(きつりつ)した、数本の太い円柱をめぐって、チラチラと入乱れている有様は、地獄の饗宴とでも形容したいような、世にも奇怪な感じのものでありました。
 私は、この不思議な情景の中で、どことなく見覚えのある、しかしそれが誰であるかは、どうしても思出せない一人の婦人と、手を()り合って踊っているのです。そして、それが夢でも幻でもないのです。私の心臓は、恐怖とも歓喜ともつかぬ一種異様の感じを以て(はげ)しく(おど)るのでありました。
 私は相手の婦人に対して、どんな態度を示すべきかに迷いました。若しそれが売女のたぐいであるなれば、どのような不作法も許されるでありましょう。が、まさかそうした種類の婦人とも見えません。では、それを生業(なりわい)にしている踊女(おどりめ)のたぐいででもありましょうか。いやいや、そんなものにしては、彼女はあまりにしとやかで、()つ舞踏の作法さえ不案内のように見えるではありませんか。それなら、彼女は堅気の娘或はどこかの細君ででもありましょうか。もしそうだとすると、井関さんの今度のやり方は、余りに御念の入った、寧ろ罪深い(わざ)と云わねばなりません。
 私はそんなことを(せわ)しく考えながら、兎も角も(みんな)と一緒に(まわ)り歩いておりました。すると、ハッと私を驚かせたことには、そうして歩いている間に、相手の婦人の一方の腕が、驚くべき大胆さを以て、スルスルと私の肩に延ばされたではありませんか。しかもそれは、決して(こび)を売る女のやり方ではなく、と云って、若い娘が恋人に対する感じでもなく、少しのぎこちなさも見せないでさもなれなれしく、当然のことのように行われたのであります。
 間近(まぢか)く寄った彼女の覆面からは、軽くにおやかな呼吸(いき)が、私の顔をかすめます。滑かな彼女の絹服が、なよなよと、不思議な感触を以て、私の天鵞絨(びろうど)の服にふれ合います。このような彼女の態度は(にわか)に私を大胆にさせました。そして、私達は、まるで恋人同志のように、無言の舞踏を踊りつづけたことであります。

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