こちらは、せっかく意気ごんだのにむだになったと知って、がっかりしてしまいました。いや、がっかりしたというよりも、他署のものに手がらをうばわれて、すくなからず不平なのです。
「明智さんから、あなたがたに、もう見はりをしなくっていいから、早くこちらへ来てくださいということでしたよ……。ぼくはちょっと、署まで用事がありますから、これで失敬します。」
若い警官はテキパキといって、暗やみの中を、グングンあき家の表口のほうへ歩いていきました。
とりのこされた五人の警官は、なんとなくふゆかいな気持で、きゅうに動く気にもなれず、
「なあんだ、つまらない。」
などとつぶやきながら、ぐずぐずしていましたが、やがて、その中のひとりが、ハッと気づいたようにさけびました。
「おい、へんだぜ。あの男、ぬけ穴の調査を命じられたといいながら、報告もしないで、署に帰るなんて、少しつじつまがあわないじゃないか。」
「そういえば、おかしいね。あいつ穴の中をしらべるのに、懐中電燈もつけていなかったじゃないか。」
警官たちは、なんとも形容のできない、みょうな不安におそわれはじめました。
「おい、二十面相というやつは、なんにだって化けるんだぜ。いつかは国立博物館長にさえ化けたんだ。もしや今のは……。」
「エッ、なんだって、それじゃ、あいつが二十面相だっていうのか。」
「おい、追っかけてみよう。もしそうだったら、ぼくらは係長にあわす顔がないぜ。」
「よしッ、追っかけろ。ちくしょう逃がすものか。」
五人は、あわただしくあき家の入り口にかけだして、深夜の町を見わたしました。
「アッ、あすこを走っている。ためしによんでみようじゃないか。」
そこで一同声をそろえて、
「オーイ、オーイ。」とどなったのですが、それを聞きつけた相手は、ヒョイとふりかえったかと思うと、立ちどまるどころか、まえにも増した勢いで、いちもくさんに逃げだしたではありませんか。
「アッ、やっぱりそうだ。あいつだ。あいつが二十面相だっ。」
「ちくしょう、逃がすものか。」
五人はやにわに走りだしました。
もう一時をすぎた真夜中です。昼間はにぎやかな商店街も、廃墟のように静まりかえり、光といってはまばらに立ちならぶ街燈ばかり、人っ子ひとり通らないアスファルト道が、はるかにやみの中へ消えています。
その中を、逃げるひとりの警官、追いかける五人の警官、キツネにでもつままれたような奇妙な追跡がはじまりました。若い警官は、おそろしく足が早いのです。町かどに来るたび、あるいは右に、あるいは左に、めちゃくちゃに方角をかえて、追っ手をまこうとします。
そして、さしかかったのが、中央区内の、とある小公園の塀外でした。右がわは公園のコンクリート塀、左がわはすぐ川に面している、さびしい場所です。
二十面相は、そこまで走ってきますと、ヒョイと立ちどまって、うしろをふりかえりましたが、五人のおまわりさんはまだ町かどの向こうがわを走っているとみえて、追っ手らしい姿はどこにも見えません。