そんなことをつぶやきながら、仏像の肩のへんをなでまわしていましたが、なにを思ったのか、ふと、その手をとめて、びっくりしたように、しげしげと仏像の顔をのぞきこみました。
 その仏像はいやになまあたたかかったからです。あたたかいばかりでなく、からだがドキンドキンと脈うっていたからです。まるで息でもしているように、胸のへんがふくれたりしぼんだりしていたからです。
 いくら生きているような仏像だって、息をしたり、脈をうったりするはずはありません。なんだかへんです。お化けみたいな感じです。
 二十面相は、ふしぎそうな顔をして、その仏像の胸をたたいてみました。ところが、いつものようにコツコツという音がしないで、なんだかやわらかい手ごたえです。
 たちまち、二十面相の頭に、サッと、ある考えがひらめきました。
「やいっ、きさま、だれだっ!」
 彼はいきなり、おそろしい声で、仏像をどなりつけたのです。
 すると、ああ、なんということでしょう。どなりつけられた仏像が、ムクムクと動きだしました。そして、まっ黒になったやぶれ衣の下から、ニューッとピストルの筒口があらわれ、ピッタリと怪盗の胸にねらいがさだめられたではありませんか。
「きさま、小林の小僧だなッ。」
 二十面相は、すぐさまそれとさとりました。この手は以前に一度経験していたからです。
 しかし、仏像は何も答えませんでした。無言のまま、左手をあげて、二十面相のうしろを指さしました。
 そのようすがひどくぶきみだったものですから、怪盗は思わずヒョイと、うしろをふりむきましたが、すると、これはどうしたというのでしょう。部屋中の仏像がみな、れんげ台の上で、むくむくと動きだしたではありませんか。そして、それらの仏像の右手には、どれもこれも、ピストルが光っているのです。十一体の仏像が、四ほうから、怪盗めがけて、ピストルのねらいをさだめているのです。
 さすがの二十面相も、あまりのことに、アッと立ちすくんだまま、キョロキョロとあたりを見まわすばかりです。
「夢をみているんじゃないかしら。それともおれは気でもちがったのかしら。十一体の仏像が十一体とも、生きて動きだして、ピストルをつきつけるなんて、そんなばかなことが、ほんとうにおこるものかしら。」
 二十面相は、頭の中がこんぐらかって、何がなんだかわけがわからなくなってしまいました。フラフラと目まいがして、今にもたおれそうな気持です。
「おや、どうかなすったのですかい。顔色がひどく悪いじゃございませんか。」
 とつぜん声がして、けさのひげむじゃの部下の男が、美術室へはいってきました。
「ウン、少し、目まいがするんだ。おまえ、この仏像をよくしらべてみてくれ、おれにはなんだかみょうなものに見えるんだが……。」
 二十面相は頭をかかえて、弱音をはきました。
 すると部下の男は、いきなり笑いだして、
「ハハハ……、仏さまが生きて動きだしたというんでしょう。天罰ですぜ。二十面相に天罰がくだったんですぜ。」
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