と、みょうなことをいいだしました。
「エッ、なんだって?」
「天罰だといっているんですよ。とうとう二十面相の運のつきが来たといっているんですよ。」
二十面相は、あっけにとられて相手の顔を見つめました。木彫りの仏像が動きだしたばかりでなく、信じきっていた部下までが、気でもちがったように、おそろしいことをいいだしたのです。いよいよ、何がなんだかわからなくなってしまいました。
「ハハハ……、おいおい、二十面相ともあろうものが、みっともないじゃないか、こんなことでびっくりするなんて。ハハハ……、まるでハトが豆鉄砲をくらったような顔だぜ。」
部下の男の声が、すっかりかわってしまいました。今までのしわがれ声が、たちまちよく通る美しい声にかわってしまったのです。
二十面相は、どうやらこの声に聞きおぼえがありました。ああ、ひょっとしたら、あいつじゃないかしら。きっとあいつだ。ちくしょうめ、あいつにちがいない。しかし、彼はおそろしくて、その名を口にだすこともできないのでした。
「ハハハ……、まだわからないかね。ぼくだよ。ぼくだよ。」
部下の男は、ほがらかに笑いながら、顔いちめんのつけひげを、皮をはぐようにめくりとりました。
すると、その下から、にこやかな青年紳士の顔があらわれてきたのです。
「アッ、きさま、明智小五郎!」
「そうだよ、ぼくも変装はまずくはないようだね。本家本元のきみをごまかすことができたんだからね。もっとも、けさは夜が明けたばかりで、まだうす暗かったし、この地下室も、ひどく暗いのだから、そんなにいばれたわけでもないがね。」
ああ、それは意外にもわれらの明智探偵だったのです。
二十面相は、一時はギョッと顔色をかえましたが、相手が化けものでもなんでもなく、明智探偵とわかりますと、さすがは怪人、やがてだんだん落ちつきをとりもどしました。
「で、おれをどうしようというのだね。探偵さん。」
彼はにくにくしく言いながら、傍若無人に地下室の出口のほうへ歩いていこうとするのです。
「とらえようというのさ。」
探偵は二十面相の胸を、グイグイとおしもどしました。
「で、いやだといえば? 仏像どもがピストルをうつというしかけかね。フフフ……、おどかしっこなしだぜ。」
怪盗は、たかをくくって、なおも明智をおしのけようとします。
「いやだといえばこうするのさ!」
肉弾と肉弾とがはげしい勢いでもつれあったかと思うと、おそろしい音をたてて、二十面相のからだが床の上に投げたおされていました。背負い投げがみごとにきまったのです。
二十面相は投げたおされたまま、あっけにとられたように、キョトンとしていました。明智探偵にこれほどの腕力があろうとは、今の今まで、夢にも知らなかったからです。
二十面相は少し柔道のこころえがあるだけに、段ちがいの相手の力量がはっきりわかるのです。そして、これではいくら手むかいしてみても、とてもかなうはずはないとさとりました。
「こんどこそはおれの負けだね。フフフ……、二十面相もみじめな最期をとげたもんさねえ。」
彼は、にが笑いをうかべながら、しぶしぶ立ちあがると、「さあ、どうでもしろ。」というように、明智探偵をにらみつけました。