妖人ゴング
江戸川乱歩
おねえさま
空には一点の雲もなく、さんさんとかがやく太陽に照らされて、ひろい原っぱからは、ゆらゆらと、かげろうがたちのぼっていました。
その原っぱのまんなかに、十二―三人の小学校五―六年生から、中学一―二年ぐらいの少年たちが集まっていました。その中にたったひとり、女の子がまじっていたのです。女の子といっても、もう高等学校を出た美しいおじょうさんです。えびちゃ色のワンピースを着て、にこにこ笑っています。少年たちの先生にしては、まだ若すぎますし、お友だちにしては、大きすぎるのです。
そのおじょうさんのそばに、少年探偵団の団長の
「きょう、団員諸君に、ここへ集まってもらったのは、ぼくのおねえさまを、しょうかいするためだよ。」
そこにいる少年たちは、みんな少年探偵団の団員だったのです。少年たちはぐるっと輪になって、美しいおじょうさんと、小林団長をとりかこみ、好奇心に目をかがやかせながら、団長の話を聞いています。
「おねえさまといっても、ほんとうのおねえさまじゃないよ。
そういって、小林君は、ちょっと、顔を赤くして頭をかくまねをしました。
「ぼくは先生の少年助手だろう。だから、マユミさんは少女助手といってもいいだろう?
すると美しいおじょうさんがニッコリ笑って、みんなに、ちょっと頭をさげてあいさつしました。
「マユミさんは明智先生のめいなんだよ。先生のおくさんのねえさんの子どもなんだよ……。」
マユミさんは、それをひきとって、
「なんだか、いいにくそうね。わたしが説明するわ。明智先生は、わたしのおじさまなのよ。ですから、わたし、小さいときから探偵がすきだったのです。それで、こんど高等学校を卒業したので、大学へはいるのをやめて、先生の助手にしていただいたの。おとうさまやおかあさまも賛成してくださったわ。そういうわけで、わたし、小林君のおねえさまみたいになったの。みなさんもよろしくね。」
「じゃあ、ぼくたちにも、おねえさまだねえ!」
とんきょうな声で、そんなことをさけんだのは、
「ええ、そうよ。みなさんのおねえさまになってもいいわ。」
マユミさんが、そう答えたので、少年たちのあいだに「ワーッ。」という、よろこびの声がおこりました。
「わたしは、探偵のすきなことでは、あなたがたに負けないつもりよ。わたしのおとうさまは花崎
「客員じゃなくって、ぼくらの女王さまだよ。女王さま、ばんざあい!」
ノロちゃんが、また、とんきょうな声をたてました。少年たちも、それにひかれて、「女王さま、ばんざい。」と声をそろえましたが、けっきょくはマユミさんを、少年探偵団の
さんさんとふりそそぐ太陽の光の下で、マユミおねえさまの、ひきあわせがすみました。なんという、たのしい日だったでしょう。みんな、その日のことは、一生わすれられないほどでした。