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少年人形_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:少年人形「あそこまで、いってみようか。」チンピラのひとりが、そっと野上君に、ささやきます。「もうすこし、待つんだ。ひょっ
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少年人形


「あそこまで、いってみようか。」
チンピラのひとりが、そっと野上君に、ささやきます。
「もうすこし、待つんだ。ひょっとして、みつかったら、たいへんだからね。」
野上少年は、チンピラの肩をおさえ、とめました。あたりは、だんだん暗くなってきます。夕方と夜とのさかいめです。もう二十分もすれば、すっかり日がくれてしまうでしょう。
じっとがまんをして、十分ほども待っていました。
すると、ふたりの悪者が、さっきの建物の角から姿をあらわし、なにか小声で話しながら、こちらへやってくるのです。
「おい、みんな、どっかへ、かくれるんだ。そして、あのふたりが、自動車に乗って行ってしまうまで、待つんだ。」
野上君が、小さい声で、チンピラたちに命令しました。
すると、いけがきからのぞいていたチンピラたちは、パッと、地面にうずくまり、はうようにして、むこうの木のしげみの中へ、姿をかくしてしまいました。なんというすばやさでしょう! チンピラたちは、こんなことには、なれきっているのです。
野上少年も、そのあとにつづいて、木のしげみに、もぐりこみました。そして、の葉のすきまから、じっと、のぞいていますと、ふたりの悪者は、いけがきのやぶれめから、外に、出てきました。
ふたりのほかに、俊一少年の姿は、どこにも見えません。いったい、どうしたのでしょう? 手足をしばられ、さるぐつわをはめられた俊一君は、撮影所の建物のどこかに、とじこめられてしまったのでしょうか。
野上少年は、いっこくもはやく、俊一君を助けださなければならないと思いました。悪者のあとを追うよりも、俊一君の命のほうがたいせつです。
やがて、悪者たちは、そこにおいてあった自動車に乗って、どこともしれず、たちさってしまいました。少年たちの自動車は、ずっと遠くのほうに待っていたので、悪者は、それと気がつかないで、すれちがって行ったのです。
もうだいじょうぶと思ったとき、野上君は、五人のチンピラに合図をして、みんなが、木のしげみからはいだしました。
「これから、撮影所の中を探すんだ。俊一君は、きっと、どこかにとじこめられている。ほうっておいたら、死んでしまうかもしれない。いっしょうけんめいに探すんだよ。」
野上君がいいますと、チンピラたちは、コックリ、コックリと、うなずいてみせて、すぐに、いけがきのやぶれめから、中にとびこんでいくのでした。
建物の角をまがると、そこに広いあき地があって、撮影につかう大道具や小道具が、あちこちにおいてあります。はりこの鳥居とりいだとか、石灯籠いしどうろうだとか、石膏せっこうでつくった銅像のようなもの、そのほか、いろいろのものが、雨ざらしになって、おいてあるのです。
そのなかに、白い石膏のライオンがうずくまっていました。日本橋の三越みつこしの玄関においてある、青銅のライオンと、よくにた形です。あれほど大きくありませんが、ほんもののライオンよりは、すこし大きいくらいです。それが、やはり、石膏の四角な台の上にうずくまっているのです。全身まっ白のライオンです。チンピラのひとりは、ライオンのそばによって、その足をなでながら、
「こんなの一ぴきほしいなあ!」
と、つぶやきました。すると、みんなが、そのそばによって、ライオンの恐ろしい顔を見あげるのでした。
それから少年たちは、撮影所の中の建物から、建物へと、まわり歩きましたが、どの建物も、みんなかぎがかかっていて、はいれません。
ただ一つ、大きなスタジオだけは、夜になっても、まだ撮影をつづけていて、入口がすこしひらいていたので、野上君は、その中へはいっていきました。
「おい、おい、きみはどこの子だい? むやみにはいってきちゃいけないよ。」
入口のうす暗いすみっこに、番人がこしかけていて、野上君をひきとめました。
「悪者が、この撮影所の中に、ぼくの友だちをかくしたのです。花崎俊一というのです。手足をしばって、さるぐつわをはめて、自動車でここへつれてきて、裏のいけがきのやぶれめから、しのびこんだのです。」
「ほんとかい? きみ。そんなことをいってごまかして、撮影を見にはいるんじゃないのかい?」
「そうじゃありません。ほんとうです。ふたりのおとなが、ぼくぐらいの子どもをつれて、この中へはいりませんでしたか?」
「そんなもの、はいらないよ。きょうは、子どもは、ひとりもはいらなかった。どっか、ほかを探してごらん。」
番人は、野上君のいうことを信じないらしく、いっこう、とりあってくれません。
野上君はしかたがないので、ほかを探すことにしました。入口のあいているのは、あとは事務所の建物ばかりです。そこへ、はいってみましたが、もう夜なので、だれもおりません。宿直の人がのこっているにちがいないと、ほうぼう探しても、ふしぎに人の姿が見えないのです。
でも、まさか、悪者が俊一君を、事務所の中へつれこんだはずはないので、また、外へ出て、裏のほうへ歩いていきますと、むこうのうす暗いなかから、なんだか小さなやつが、ピョン、ピョンと、とぶように走ってくるではありませんか。近づくのを見ると、それはチンピラ隊のひとりでした。
「あっ、野上さん、きてごらん。むこうに、へんなものがあるよ。」
「へんなものって?」
「いろんなものが、ごちゃごちゃおいてある。ひょっとしたら、俊一さんは、あそこに、いれられたのかもしれないよ。」
「よしっ、いってみよう。」
「野上さん、懐中電灯、持ってるの?」
「うん、ちゃんと、ここに持ってるよ。探偵七つ道具の一つだからね。」
野上少年は、そういって、ポケットをたたいてみせました。
チンピラに案内されて行ってみますと、それは撮影に使う小道具が、いっぱいならべてある道具部屋でした。どうしたわけか、そこの戸には、かぎがかかっていなかったのです。
ふたりは、懐中電灯をつけて、中にはいりました。
長っぽそい部屋の両がわに、ずっと棚があって、いろいろなものが、ならんでいます。むかしの行灯あんどんだとか、煙草盆たばこぼんだとか、いろいろな形の掛け時計、置き時計、むかしのやぐら時計、花びんや置きもの、本棚もあれば、洋酒のびんをならべる飾り棚もあります。それから三面鏡や、むかしのまるい鏡と、鏡台、まるで古道具屋の店のようです。
「あっ、あすこにいる!」
チンピラが、とんきょうな声をたてて、野上君に、しがみついてきました。
ギョッとして、そのほうへ、懐中電灯をむけますと、そこに、俊一君らしい小学生服の子どもが、壁によりかかっているではありませんか。
野上君は、「あっ。」といって、かけよりました。
近よって、懐中電灯で、その子どもの顔を照らしました。ちがいます。俊一君ではありません。それじゃ、いったい、どこの子なのでしょう。いや、どこの子でもありません。それは人間ではなかったのです。学生服をきた人形にすぎなかったのです。
よく見ると、少年人形のそばに、おとなの男や女の人形が、三つも四つも壁にもたせかけてありました。みんな撮影に使う人形なのです。
「なあんだ。人形かあ。おれ、てっきり俊一さんだと思っちゃったよ。」
チンピラが、がっかりしたように、つぶやきました。
そのときです。道具部屋の入口から、もうひとりのチンピラが、かけこんできました。
「野上さん、こんなとこにいたのか。ずいぶん探したよ。……みつかったよ。みつかったよ。俊一さんのかくれているとこがさ。」
そのチンピラは、息せききっていうのでした。
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