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ふたりの老人_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:ふたりの老人東京都の西のはし、西多摩にしたま郡に、平沢ひらさわという村があります。多摩川の上流に近い山の中で、けしきのよ
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ふたりの老人


東京都の西のはし、西多摩にしたま郡に、平沢ひらさわという村があります。多摩川の上流に近い山の中で、けしきのよい小さな村です。
その村はずれに、一軒のわらぶきの農家があります。いちばん近い家でも、百メートル以上はなれているという、さびしい一軒家です。
このごろ、そこへ、見なれぬ人たちが住むようになりました。しらが頭に、白いあごひげのはえた、七十にちかいようなおじいさんと、十六―七のいなかむすめと、十二歳ぐらいの男の子と、としとったばあやとの四人ぐらしです。
いなかむすめは、あまり美しくありませんし、男の子も、黒くよごれたきたない顔をしています。ふたりは、きょうだいのようですが、学校へもいかず、山へ遊びにいくわけでもなく、いつも、一間ひとまにとじこもって、本を読んでいます。なんだか元気のない子どもたちです。
おじいさんも、畑仕事などしないで、たいていは家にいて、草花などのせわをして、暮らしています。
ある朝はやくのことでした。ちょうど、夏で、えんがわの前には鉢植えのアサガオがたくさんならんでいて、赤や青やむらさきの大きな花が、美しくひらいていました。
カーキ色の仕事服をきたおじいさんは、その前にしゃがんで、アサガオの葉の虫をとっていましたが、そのとき、
「おはよう。せいがでますな。」
という声が聞こえました。
ふりかえってみると、いけがきの外から、いなかもののじいさんが、にこにこ笑いながらのぞいていました。
よごれたゆかたを着て、しりはしょりしています。やっぱり、半分しらがになったごましお頭で、もじゃもじゃと、ぶしょうひげをはやしています。日にやけた黒い顔です。
「どなただね。見かけないお人じゃが……。」
しらひげのおじいさんが答えますと、いなかじいさんは、また、にこにこ笑って、
「わしは、この隣村のものじゃが、アサガオが、あんまりみごとなもんで、つい、声をかけただよ。」
「そうかね。おまえさんも、アサガオがすきかね。まあ、いいから、こっちへはいって見てください。」
そういわれたので、いなかじいさんは、しおり戸をあけて、のこのこ、中へはいってきました。
「まあ、ここへ、おかけなさい。いま、お茶でもいれますから。」
そういって、しらひげのおじいさんが、縁がわに腰をかけると、いなかじいさんも、ならんで腰かけ、アサガオのそだてかたについて、話がはずみましたが、いなかじいさんは、庭ぜんたいの草花が見たいというので、縁がわから立って、庭の奥のほうまで見まわるのでした。
主人のしらひげのおじいさんも、そのあとから歩いていきましたが、ふたりのあいだが、ずっとへだたって、いなかじいさんが、家の角をむこうへまがっていくのを待って、こちらの軒下においてある木の箱のふたをひらき、その前にしゃがんで、なにかやっていましたが、やがて立ちあがると、箱の中から一羽のハトが、ばたばたと飛びだして、サーッと空に舞いあがり、そのまま、どこかへ飛びさってしまいました。
いなかじいさんは、それには気がつかず、むこうの角からもどってきました。
それから、ふたりのおじいさんは、しばらく肩をならべて、庭の草花を見まわっていましたが、もとの縁がわへもどろうと歩きだしたとき、あとから、しらひげのおじいさんが声をかけました。
「ああ、もしもし、これ、あんたのじゃありませんか。ここに落ちてましたが。」
それは、ラシャでつくった、ひどくでっかいかみいれでした。
「あ、そうです。そうです。それは、わしのさいふです。」
いなかじいさんは、あわてて、それを受けとると、ふところへ、ねじこみました。
「ハハハ……、よっぽど、だいじなものがはいっているとみえますね。なかなか、重いじゃありませんか。」
「いや、いや、くだらないもんです。お金だといいんだが、ハハハ……。」
と、じいさんは、ごまかしてしまいました。
ふたりが、もとの縁がわに腰をかけると、しらひげのおじいさんは、
「では、お茶をいれますから、ちょっと、待っていてください。」
といって、奥へはいっていきました。
いなかじいさんは、ひとりになると、あたりを、キョロキョロ見まわして、縁がわから家の中へあがり、そっと、むこうの障子しょうじの奥をのぞくのでした。その障子の奥には、まだ、かやがつってあって、きょうだいの子どもが眠っているのです。
じいさんは、障子のすきまから、そのかやのほうを、じっと見ています。気味のわるいじいさんです。ひょっとしたら、どろぼうかもしれません。
そのとき、とつぜん、しらひげのおじいさんが、べつの部屋から出てきました。
「おきのどくだが、とうとう、わなにかかったね。」
いなかじいさんは、ぎょっとしてふりむき、
「え、なんだって?」
と、しらばっくれて、しかし、もう逃げごしになっています。
「ハハハハ……、だめだよ。逃げようたって、わしは、こうみえても、かけっこの名人だからね。」
いなかじいさんは、縁がわまではいもどって、もとのところに腰かけました。
「なにいってるだね。わしは、ただちょっと……。」
「ハハハ……、ただちょっと、かやの中のふたりを、たしかめにいったのだろう? じつは、もうくるか、もうくるかと、わしは、きみを待ちかまえていたのだよ。うまく、わなにかかったねえ。」
ふたりの老人は、恐ろしい顔でにらみあいました。おたがいの腹の底まで、見すかそうとしているのです。
そのとき、いなかじいさんは、すばやく、ふところに手をいれて、さっきのさいふの中から、小型のピストルをとりだし、さっと、しらひげのおじいさんにつきつけました。
「これはどうだね。ハハハ……、きみが拾ってくれたさいふの中には、これがいれてあったのさ。じたばたすると、ぶっぱなすぞっ。」
しかし、しらひげのおじいさんは、すこしもさわぎません。にこにこ笑って、じっとあいてを見ています。
「きさま、これが、こわくないのか。命がおしくないのか。」
「命はおしいよ。だが、そんなピストルは、こわくもなんともないよ。さっき、拾ったというのはうそで、きみのふところからぬきとって、たまをみんな出しておいたのだよ。」
おじいさんは、そういって、カーキ色の服のポケットから、ピストルのたまを六つとりだし、てのひらにのせて、じゃらじゃらいわせるのでした。
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