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さいごの手段_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:さいごの手段立ちすくんでいたゴングじいさんが、パッと身をひるがえしました。「おれには、さいごの奥の手があるんだっ。」と叫
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さいごの手段


立ちすくんでいたゴングじいさんが、パッと身をひるがえしました。
「おれには、さいごの奥の手があるんだっ。」
と叫びざま、明智探偵のほうへ突進してきました。小林君は、ピストルをかまえていましたけれど、うつことができません。それほどゴングは、すばやかったのです。
明智にとびかかるかと見ていると、そうではなくて、明智の横をとおりすぎて、いきなり、縁がわにとびあがり、あっと思うまに、奥の部屋にかくれてしまいました。
そのとき、警官たちは、もう、縁がわの近くまできていましたが、ゴングじいさんの姿が見えないので、ピストルをうつこともできません。
「裏へまわってください。裏から逃げるつもりです。」
明智の声に、警官たちは、家の横を裏のほうへ、とんでいきましたが、もう、まにあいません。ゴングじいさんは、一直線に、家の中を突っきって、裏手にとびだすと、そのまま、いけがきを乗りこして、裏山の森の中へ逃げこんでしまいました。そのはやいこと! まるで、つむじ風がとおりすぎるようでした。
三人の警官が、それにつづいて、森の中へとびこんでいったことは、いうまでもありません。
道もない森の中。頭の上は、いくえにも木の葉にとざされて、まっ暗です。イバラやつる草が、ゆくてをふさいでいて、なかなか、はやくは進めません。
ゴングじいさんの姿は、はるかむこうに、ちらちらと見えたりかくれたりしています。三人の警官は、ターン、ターン、ターンと、空にむかって、おどかしのピストルを発射しました。
しかし、そんなことで、おどろくゴングではありません。かれの姿は、ますます遠ざかっていくばかりです。
そのとき、警官たちは、ぞっとして立ちどまりました。
「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」
どこともしれず、あの恐ろしい音が聞こえてきたからです。はじめは小さく、だんだん大きく、しまいには、こまくやぶれるばかり恐ろしいひびきとなって、おそいかかってくるのです。
ふと気がつくと、むこうの木のあいだに、白いもやのようなものがたちこめていました。だれかたき火でもしているのかと思いましたが、そうでもありません。うす暗い森の下に、白いものが、ボーッとたちこめているのです。
警官たちは、思わず立ちどまって見ていますと、その白いもやの中に、ぼんやりと、へんなものがあらわれてきました。
あっ! 人の顔です。五メートル四方もあるような、でっかい人の顔です。いや人間ではありません。人間に、あんなきばがはえているはずはないのです。
ギョロリと光ったまんまるな目、大きな鼻、耳までさけた恐ろしい口、そこから、ニューッと、とびだしている大きな牙。
妖人ゴングです。ゴングが正体をあらわしたのです。
「撃てっ!」
警官のひとりが叫びざま、怪物の顔にむかってピストルを発射しました。あとのふたりも、それにつづいて、ターン、ターンとピストルを撃ちました。
しかし、白いもやの中の怪物は、びくともしません。大きな口を、キューッとまげて、あざ笑っているばかりです。
勇敢な警官たちは、いきなり、白いもやにむかって突進していきました。怪物につかみかからんばかりのいきおいです。
ところが、近づくにしたがって、もやの中の怪物が、とけるように、くずれていきました。そして、警官たちが、もやの中にふみこんだときには、もう、そこには、なにもないのでした。ただ、うすい煙のようなものが、ふわふわと、ただよっているばかりです。
そのとき、またしても、警官たちを、あざ笑うように、あのぶきみな音が、ひびいてきました。
「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」
その音にまじって、もうひとつの、みょうな音が聞こえてくるのです。
「ブルン、ブルン、ブルン、ブルルルル……。」
そして、サーッと嵐のような風が吹きつけてきました。そのへんの立ち木が、ざわざわとゆれています。
怪物が、なまぐさい風をまきおこして、天にでものぼっていくのでしょうか。警官たちは、なんだか、そんな感じがしました。
白いもやをくぐりぬけて、なおも進んでいきますと、むこうのほうが、パッと明るくなりました。そこで森がなくなって、原っぱがひろがっているらしいのです。小山のいただきが、原っぱになっているのでしょうか、つむじ風は、その原っぱのほうから吹きつけているらしいのです。
警官たちは、やっと、森をぬけて、原っぱに出ました。
「あっ! あれをみたまえ。」
さきにたっていた警官が、空を指さして叫びました。
ああ、ごらんなさい。小山のいただきの原っぱの空には、一台のヘリコプターが、舞いあがっているではありませんか。
「あっ、ゴングは、あれに乗って逃げだしたんだ。あいつは、ヘリコプターを、ちゃんと、ここに待たせておいたんだ。」
まだ、そんなに高くあがっていないので、すきとおったプラスチックばりの操縦席が、よく見えます。そこには、ゴングの部下らしいひとりの操縦者と、いなかじいさんにばけたゴングとが乗っていて、いなかじいさんは下を見おろして、にやにや笑っているのが、まざまざと見えるのです。
警官たちは、こぶしをふるって、空にどなりつけましたが、なんのかいもありません。つづけざまにピストルをぶっぱなしましたが、ヘリコプターにはあたりません。
ヘリコプターは、上へ上へとのぼって、東京のほうにむかって遠ざかっていきます。豆つぶのように小さくなり、それも、やがて見えなくなってしまいました。
妖人ゴングは、明智探偵のために裏をかかれて、なにもすることもできず逃げさったのです。しかし、さすがの名探偵も、ゴングをとらえることはできませんでした。まさか、ヘリコプターまで用意しているとは気がつかなかったからです。
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