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防空壕の中_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:防空壕の中そのあくる日のことです。花崎さんの家の俊一君の勉強部屋に、見なれぬ刑事が、見はりばんをつとめていました。刑事は
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防空壕の中


そのあくる日のことです。花崎さんの家の俊一君の勉強部屋に、見なれぬ刑事が、見はりばんをつとめていました。
刑事は、かわりあってやってくるので、毎日同じではありませんが、今日の刑事は、いままで、一度もきたことのない人でした。その刑事は、
「わたしは、二―三日まえに刑事をつとめるようになった、しんまいです。」
と、あいさつして、にやにや笑いました。なんだか、へんな刑事さんです。
その刑事は、お昼から夜まで、ずっと見はりをつづけていましたが、夜の九時ごろ、うちの人が、みんな寝室へひきとり、あたりが、しーんとしずかになるのを待って、刑事は俊一君の洋室の窓をあけ、そこから庭へとびおりました。
まっ暗な庭に立って、しばらく、そのへんを見まわしていましたが、だれもいないことがわかると、広い庭の木立こだちの中へはいっていきます。いったい、この刑事は、なにをするつもりなのでしょう。
木立ちの中に、土手のように小だかくなったところがあります。刑事はそのそばによって、土手の横にある四角な鉄のとびらを、パッとひらきました。
それは、むかし、戦争のときにつくった防空壕の入口だったのです。戦争のときは、空襲があると、家じゅうのものが、そこへ逃げこんだものです。
花崎さんの庭にある防空壕は、ぜんぶコンクリートでつくり、鉄のとびらをあけ、階段をおりて、コンクリートの地下室にはいるようになっていました。
がんじょうなコンクリートづくりなので、こわすのがたいへんですし、物置部屋につかうこともできますので、花崎さんは、防空壕をこわさないで、そのままにしておいたのです。
刑事は、まっ暗な階段をおり、そこにもう一枚しまっている鉄のドアを、こつこつと、たたきました。
「だれ?」
中から、子どもの声が聞こえました。
「わたしだよ。おとうさんだよ。ちょっと、ここをあけなさい。」
刑事が、花崎さんとそっくりな声でいいました。このあやしい刑事は、ものまねの名人です。
カチカチと、かぎの音がして、鉄のドアがひらきました。
あっ、こんなところに! ……その地下室の中には、ゆくえ不明になったマユミさんと俊一君が、かくれていたのです。てんじょうからさがった小さな電灯が、ふたりの顔を照らしています。
ふたりはゴングをだますために、どこかへいってしまったと見せかけて、じつは、こんな地下室の中で、不自由な思いをしていました。食事は、だれも見ていないときに、おかあさんが、そっと運んでいてくださったのです。
ふたりは、おとうさんと思いこんで、ドアをひらいたのですが、そこに見しらぬ男が立っていたので、ハッとしてドアをしめようとしました。しかし、もう、おそかった! 刑事は、ドアをおしひらいて、地下室の中へ、ヌーッとはいってきました。
「きみたち、マユミさんと、俊一君だね。」
刑事が、にやにや笑いながらいうのです。
「そうだよ。きみはだれなの?」
俊一君が、ききかえしました。
「わたしは、警視庁の刑事だよ。きみたちを迎えにきたのだ。もう、外へ出てもだいじょうぶだよ。」
それを聞くと俊一君は、しばらく考えていましたが、ハッとなにかに気づいたようすで、
「じゃあ、なぜ、おとうさんだなんて、うそをいったの?」
「いや、あれは、ちょっといたずらをしたんだ。なんでもないよ。さあ、いこう。」
刑事はそういって、ふたりの手をとろうとしましたが、ふたりは、さっと身をひいて、それをさけました。
「いやだよ。じゃあ、なぜ、おとうさんやおかあさんが、じぶんでこないんだい? ぼくたちは、ちゃんと約束したんだ。この地下室へは、おとうさんと、おかあさんと、明智先生のほかは、だれもはいってこないはずなんだよ。もし、そのほかの人がはいってきたら、敵だと思えといわれているんだ。」
俊一君が、そこまでいいますと、ねえさんのマユミさんがひきとって、あとをつづけました。
「そうよ。それに、けさ、おかあさまに聞いたわ。ゆうべ、家の空に、ゴングの顔があらわれたんですって、あれは、ゴングがやってくる前ぶれよ。」
「そうだ。きみは、そのゴングか、ゴングの手下だろう。え、そうだろう。ぼくたちを、つれだしにきたんだろう?」
俊一君も、叫ぶようにいうのです。すると、刑事が、いやな笑い声をたてました。
「ウフフフフフフ……、おまえたちは、なかなかりこうだな。そう気がつけばしかたがない。おれはゴングだよ。ウフフフ……、手下じゃない。おれが、あの恐ろしいゴングなのだ。おれは変装の名人だから、なににだってばけられる。きょうはほんものの刑事を、あるところへ閉じこめておいて、その身がわりになって、ここへやってきたのだ。さあ、ふたりともおれといっしょに、くるんだっ!」
マユミさんと俊一君は、顔を見あわせて、くすりと笑いました。なぜでしょう。妖人ゴングが、こわくないのでしょうか。
俊一君が、いたずらっぽい顔をして、いいました。
「ところがね、ゴング君、おあいにくさまだよ。おれは俊一君じゃないのさ。ここにいるのは、マユミさんじゃないのさ。」
少年は、にわかに、ことばづかいが悪くなって、へんなことをいいだしました。
「おれは、チンピラ隊の安公やすこうというんだよ。そいから、このねえさんは、やっぱり、おいらのなかまで、ひでちゃんっていうんだ。さすがのゴングおじさんも、すっかり、だまされたねえ。ワーイだ!」
いったかと思うと、ひでちゃんと安公は、ゴングがつかまえようとする手の下をくぐって、すばやく逃げだしました。そして、あっと思うまに入口の外へとびだして、ピシャンとドアをしめ、外からかぎをかけてしまいました。
さすがの妖人ゴングも、チンピラ隊の安公に、してやられたのです。にせものだときいて、びっくりしたので、つい、つかまえる手のほうが、おるすになったからでしょう。
チンピラ隊の少年たちは、みんなリスのように、すばしっこいのですが、なかでも安公は身がかるいので有名でした。大敵ゴングを、むこうにまわして、まんまと、うまくやってのけたのは、えらいものです。

五ひきのネズミ


刑事にばけた妖人ゴングは、鉄のドアをおしたり、ひいたりしてみましたが、恐ろしくがんじょうにできているので、どうすることもできません。からだごと、ぶっつかってみても、びくともしないのです。
針金が一本あれば、錠をひらくぐらい、ゴングには、わけもないのですが、あいにく、そんな針金は、どこにもありません。ゴングはがっかりして、地下室のすみにおいてあるベッドに腰かけました。
「明智は、恐ろしいやつだ。まさか、ここまで、裏の裏があるとは知らなかった。」
西多摩の山の中まで出かけていくと、それが、にせもの。そして、こんどは、家にかくれているだろうと、やっとのことで防空壕を探しあてると、またしてもにせものだったのです。明智探偵の奥底のしれない計略には、さすがのゴングも、すっかり、あきれてしまいました。
ベッドに腰かけて考えこんでいますと、目のすみで、なにかしら、チラッと、動いたものがあります。
だれもいない地下室に、動くものがあるはずはありません。「へんだな。」と思って、よく見ますと、すぐ前のコンクリートの壁の下に、さしわたし十センチほどの、いびつな穴があいています。穴の中はまっ暗です。どうも、さっき動いたのは、この穴のへんでした。穴の中に、なにか生きものがいるのでしょうか。
大きなヘビでも住んでいるのではないかと思うと、いくらゴングでも、いい気持はしないとみえて、かれは、みょうな顔をして、じっと、その穴をにらみつけていました。
すると、まっ暗な穴の中から、チラッとのぞいたやつがあります。小さい目がキラキラ光って、口がとんがり、ひげがピンと五―六本はえています。
「なあんだ、ネズミじゃないか。」
ゴングは、思わずつぶやきました。ネズミは用心ぶかく、しばらく考えていましたが、ゴングがしずかにしていますので、だいじょうぶと思ったのか、チロチロと、穴からはいだしてきました。
「ネズミがくるからには、この穴は、外へ通じているんだな。それなら、この穴を大きくして、土を掘っていけば、逃げだせるかもしれないぞ。」
ゴングは、そんなことを考えました。たしかにこの穴は、あるところへ通じていたのです。しかし、それがどんなところだったか? もしゴングが、そこへ気づいたら、どんなにギョッとしたことでしょう!
さっきのネズミは、地下室のすみをつたって、スーッと、むこうへ走っていきましたが、すると、また穴の中から、小さな顔をだしたやつがあります。二ひきめのネズミです。
その第二のネズミが穴を出て、そのへんをうろうろしているあいだに、また、穴の中から、第三のネズミがはいだし、つづいて、第四、第五と、あわせて五ひきのネズミが出てきたではありませんか。
「へんだなあ。どうして、こんなにネズミが出てくるんだろう? ここには、たべものなんか、ありゃしないのに。」
ゴングは、なんだか気味がわるくなってきました。ネズミたちが、地下室に閉じこめられたじぶんを、からかいにきたのかと思うと、しゃくにさわってくるのです。
「こんちくしょうめ!」
ゴングはいきなり立ちあがり、足ぶみをして、ネズミを、もとの穴の中へおいかえそうとしました。
ところが、ネズミたちは、地下室をぐるぐる逃げまわるばかりで、どうしても穴の中へは、はいろうとしません。
なぜでしょう? これには、なにかわけがあるのでしょうか。ひょっとしたら、穴の奥に恐ろしい動物がいるので、ネズミたちはそれがこわくて、穴へもどれないのではないでしょうか。
そのとき、またしても、なんだか、へんなことが起こりました。穴の中から、水が流れだしてきたのです。
それを見ると、ゴングは、あることに気づいて、まっさおになってしまいました。
穴の奥には、たしかに恐ろしいやつがいたのです。それは水だったのです。ネズミどもは流れる水におわれて、この部屋へ逃げてきたのにちがいありません。
そのうちに、水の勢いがはげしくなってきました。ドーッと流れだしてきたかと思うと、つぎには噴水ふんすいのように、恐ろしい力でふき出すのです。
「ああ、わかったぞ。この穴はあの池の底へ通じているんだな。」
ゴングは、花崎さんの庭に、池のあることを思いだしました。このお話のさいしょのほうで、池の中から巨大なゴングの顔があらわれたことがあります。あの池です。あの池の水が、この穴へ流れてくるのです。
ゴングが地下室へ閉じこめられたとき、だれかが、池の底にしかけてあるふたをはずして、水が流れるようにしたにちがいありません。
流れだす水は、みるみる地下室の床いっぱいになり、立っているゴングの足くびをかくし、その水面が、じりじりとあがってくるのです。
ネズミどもは、五ひきともベッドの上にかけあがりました。ゴングも、ベッドにのぼりました。
水面は、ぐんぐんと高くなり、もうベッドの上までのぼってきたではありませんか。
ゴングは、ジャブジャブと水の中を歩いて、鉄のドアに近づき、もう一度、おしたり、ひいたりしてみましたが、やっぱり、だめです。
水面はもう、ゴングの腰のへんまでのぼってきました。
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