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地上と地下_妖人ゴング_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:地上と地下そのとき、花崎さんの広い庭に、何十人という黒い人影がむらがっていました。ことに防空壕の土手のまわりに、おおぜい
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地上と地下


そのとき、花崎さんの広い庭に、何十人という黒い人影がむらがっていました。ことに防空壕の土手のまわりに、おおぜいの人が集まっているのです。
懐中電灯が、あちこちで照らされ、夜の庭に、その光が、星のようにきらめいていました。
庭の池のまわりにも、四―五人の黒い人影がありました。みんな小さなからだです。子どものようです。
懐中電灯の光が、スーッと池の水面を照らしました。
「あっ、池の水が、あんなに、へっちゃったよ。もう防空壕が、いっぱいになったかもしれないよ。」
「うん、はやく助けてやらないと、あいつ死んじゃうかもしれないね。」
それは少年の声でした。
みると、池の水は、もう、いつもの半分ほどにへっているのです。
懐中電灯が動いて、ひとりの少年の顔を照らしました。あっ、井上一郎君です。少年探偵団の井上君です。すると、ここにいる少年たちは、みんな少年探偵団員なのでしょうか。
防空壕のまわりにも、小さい黒い影がむらがっていました。
防空壕の土手には、両方のはしに、出入り口の鉄のとびらが閉まっています。その両方の出入り口の前に、小さい影が集まっているのです。
いっぽうの出入り口の前で、こんな声が聞こえました。
「小林さん、だいじょうぶなの? あいつ魔法つかいだから、とっくに、防空壕の中からぬけだしてしまったんじゃないかしら?」
「だいじょうぶだよ。あいつは、魔法つかいじゃない。ただの人間だよ。悪知恵をはたらかせて、魔法をつかうように見せかけているだけだよ。いくらゴングだって、この厳重な防空壕から逃げだせるもんか。」
懐中電灯の光が動いて、チラッとふたりの顔を照らしました。ひとりは探偵団長の小林少年、もうひとりは、ちゃめで、おくびょうもののノロちゃんでした。
「そんなら、防空壕の中は、いまごろ水でいっぱいになっているだろうから、あいつ、死んじゃったかもしれないね。」
ノロちゃんが、心配そうにいいました。
「だいじょうぶだよ。明智先生は、人を殺したりなんかしはしないよ。ごらん! あれを。」
小林少年は、防空壕の土手の上を指さしました。
小山のようになった土手の上に、三人のおとなの影が見えています。ひとりは、そこに立って、懐中電灯を照らしながら、なにかさしずをしています。あとのふたりは、一本ずつシャベルを持って、しきりと、土手の上の土を掘っています。
「ああ、あそこへ穴を掘って、ゴングを助けだすんだね。」
「助けだすんじゃない。つかまえるのだよ。とうとう、ゴングも、明智先生の計略にかかってしまったねえ。これでもう花崎君たちは安心だよ。」
防空壕のまわりには、少年たちのほかに、数人の制服警官の姿も見えました。妖人ゴングを逮捕するために、手ぐすねひいて、待ちかまえているのでしょう。
×    ×    ×
防空壕の水の中では、魔法の力をうしなったあわれなゴングが、きちがいのように、わめいていました。
「助けてくれええ……、だれか、きてくれええ……。」
しかし、壕の中は水ばかりで、空気はてんじょうにおしつけられているものですから、つまったようなへんな声になってしまいます。むろん、外まで聞こえるはずはないのです。
ゴングは叫びつかれて、とうとう、だまりこんでしまいました。水のつめたさで、からだがしびれてしまって、手足をもがきながら水に浮いているのが、やっとです。
「ちくしょうめ! 明智のやろう、おれをこんなひどいめに、あわせやがって……。だが、おれはまだ、あきらめないぞ。なんとかして、ここをぬけだし、こんどこそ、きさまを、とっちめてやるぞっ!」
ゴングは、口の中で、そんなことを、ぶつぶつ、つぶやいていました。
すると、そのとき、どこかから、ブルルルルル……という、へんてこな音が聞こえてきました。なんだか、オートバイのエンジンをかけているような音です。
「いや、ちがう。オートバイが、こんなところへくるはずがない。ひょっとしたら、水がどっかへ流れだしているんじゃないかな。小さな穴から流れだす音じゃないかな。」
ゴングは、手をのばして、てんじょうにさわりながら、じっと考えていました。
しかし、てんじょうと水面のあいだは、遠くなるどころか、じりじりと、近づいていることがわかりました。水がひいているのではないのです。
「ブルルルルルル……。」
その、みょうな音につれて、てんじょうにさわっている手がブルブルふるえてきました。つまり、コンクリートのてんじょうそのものが、ふるえているのです。
「ブルルルル……ブルルルル。」
その音は、ますます強くなり、てんじょうは、いよいよ、はげしくふるえてきました。
地震ではありません。しかし、なにか恐ろしい異変が起こる前ぶれではないでしょうか。さすがのゴングも、なんともえたいのしれぬこわさに、ふるえあがってしまいました。
あっ、たいへんです。コンクリートのてんじょうが、メリメリと音をたてて、ひびわれてきたではありませんか。それが、手さぐりで、わかるのです。
やっぱり、地震かもしれません。てんじょうがこわれ、その上の土手の土といっしょに落ちこんできて、ゴングは生きうめになってしまうのではないでしょうか。
「ブルルルル……、ブルルルルル……。」
音はすこしもやみません。そのうちに、上から、なにか、バラバラと落ちてきました。砂のようなもの、小石のようなもの、なかには、大きな石のかたまりのようなものが、頭の上にふりそそいで、水面に、ボチャン、ボチャンと落ちるのです。
ゴングは、いよいよ、この世のおわりがきたのかと思いました。もう、どうすることもできません。水の中へもぐってみても、助かるみこみはありません。ゴングはかくごをきめて、頭の上にふりそそぐ、砂や小石を、じっとがまんしているほかはないのでした。
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