ガンマ九号は、スピードをいっぱいにあげて飛んでいた。だが、ノブオはのろくてしようがないような気分だった。お父さんに早く会いたくてたまらないからだ。
また、気になるのは、ふしぎな装置による、お父さんからの連絡にあった言葉だ。あぶないから来てはいけないという。
「なにが危険なのでしょう」
「さあ……」
と、操縦席のミキ隊員も首をかしげた。行ってみなければわからないことなのだ。
やがて、めざす星が近づいた。速力をゆるめながら、そのまわりをまわる。ノブオは望遠鏡で熱心に地上をながめた。この星にお父さんがいるのだ。そのうち、叫び声をあげる。
「変な星だなあ。どうして、こうなっているんでしょう」
「どうなっているの」
「ここは、わりと小さな星で、公園のようにきれいなんです。ところどころに湖水があり、森があり、滝があり、野原がある……」
「それならいいじゃないの」
「だけど、めちゃくちゃに荒れはてたところもあるんです。地面の三分の一ぐらいは、みにくく焼けただれているんですよ」
ミキ隊員は望遠鏡をのぞいて言った。
「ほんと、ふしぎねえ。それに、お父さんの宇宙船も見あたらないし……」
「うまく、さがせるでしょうか」
と、ノブオは悲しそうな顔をした。星の上をくまなく調べるのは、大変なことなのだ。しかし、ミキ隊員は言った。
「大丈夫だと思うわ。宇宙船のそとに電波反射器を持ち出していればね。それは、こっちから電波を出すと、波長を少し変えて反射する小さな装置なの。だから、それをレーダーで調べればいいのよ。やってみましょう」
ミキ隊員は電波を出した。ノブオは、じっとレーダーを見つめた。やがて、ぽつんと光の点が現われた。
「わあ、反射があった。あそこだ……」
ガンマ九号は、そこをめざして着陸した。おりたところは、花の咲いている野原だ。鳥が飛んだり、チョウが舞ったりしている。
しかし、少し離れたところからむこうは、草が一本もはえていない。黒こげの岩ばかりの地面がつづいている。そのちがいが、あまりにはっきりしていて、ぶきみな感じだ。
「お父さん、どこですか。ぼく、ノブオですよ……」
ノブオは大声をあげた。そして、耳をすませて返事を待った。胸がどきどきする。ペロもほえはじめたが、頭をなでてだまらせた。答えを聞きのがしたら困るからだ。
「ここだよ……」
どこからか声がした。なつかしいお父さんの声だ。ノブオはからだじゆうの力がぬけていくようで、草の上にしゃがんでしまった。お父さんは元気だったのだ。この日をどんなに待ったことだろう。
声のほうをむくのがこわいようだ。そのとたん、なにもかも夢のように消えてしまうのじゃないかと思えたのだ。
しかし、思いきって顔をこっちにむけた。野原の遠くのほうに、古いお城のような建物があった。その塔の上でハンカチを振っている人がいる。その手の動かしかたで、ノブオにはすぐわかった。ほんとにお父さんなのだと……。
ノブオは声が出なかった。かわってミキ隊員が叫んでいた。
「いま、そっちへ行きますよ……」
童話に出てくるようなお城だった。そのなかで、ノブオはお父さんにだきつき、しばらくは動かなかった。やがて、お父さんは言った。
「こんなところで、ノブオに会えるとは思わなかったよ」
「お父さんも、ぶじだったのですね」
「ああ、いろんな事件に出会ったが、いまのところは元気だ。しかし、問題はこれからだよ。ここへ来るなと言っておいたのに。わたしたちは、この星からぶじに帰れるかどうかわからない」
「モリ隊員、それはなぜなのですか」
と、ミキ隊員が言った。モリ隊員とは、ノブオのお父さんのことだ。
「おそるべきやつらが攻めてくるんです」
「なぜ、こんなおだやかな星が……」
ミキ隊員が聞くと、モリ隊員が話しはじめた。
*
……わたしはガンマ基地を出発してから、ほうぼうの星をめぐった。いろいろな出来事があったが、それはいずれゆっくり話そう。
宇宙船の計器のみちびくままに飛びつづけ、しばらく前にこの星へきたのだ。いごこちのいい星なので休養もとりたかったし、だれがこのような美しい星にしあげたのか調べようとも考えたからだよ。
だが、その時なのだ。なにが起こったと思う。突然、丸い形の宇宙船が、何台も空に現われたのだ。もちろん、地球のものではない。
赤っぽい毒々しい色で、ギラギラ光っている。見ていていやな気分になるものだ。
ふしぎだった。この星には、攻撃しなければならないものは、なに一つないはずだ。しかし、攻撃がはじまったのだ。
どうやら、やつらにとっては、理由などどうでもいいのだろう。攻めてぶちこわすことが、面白くてならないらしい。そんな感じなのだ。この星を美しくした宇宙人とは、べつな宇宙人なのだろう。
ひどいものだ。むちゃくちゃなのだよ。やつらは着陸し、丸い形の宇宙船で地上をころがるように動きまわる。それはものすごい高熱を出し、草や木を焼きはらい、川や湖をひあがらせてしまう。あまりのことに、わたしはとめようと思った。
「そんなことをしてはいけない……」
と、電波や音波を使って呼びかけてみた。しかし、なんのききめもない。呼びかけが通じなかったのでもないらしい。なぜなら、返事のかわりに、こっちへむかってきたのだ。
やつらにとっては、自分たち以外は、みな敵なのだ。どんなかっこうの宇宙人かわからないが、きっと悪魔のような顔だろうな。
このままでは、やられてしまう。わたしは宇宙船を逃げ出し、やっと助かった。わたしの宇宙船はたちまち焼かれ、とかされてしまった。ものかげから光線銃をうってみたが、とても歯がたたない。
それからは苦しい毎日だった。焼け野原にひそんでいれば、やつらの攻撃からは安全だ。だが、食べ物や水に困る。まだ焼きはらわれていない土地にいれば、くだものなどが手に入る。しかし、そのかわり、いつ、やつらが襲ってくるかわからないのだ。
あっちへ逃げたり、こっちに逃げたりで、くたびれてしまう。だが、攻撃をかわし、うえ死にしないためには、そうしなければならなかったのだよ。
この星には、ほうぼうにこのようなお城がある。その地下室にかくれている時、れいの装置を発見した。考えたことを、そのまま通信できるものだ。
そして、ノブオからの呼びかけを受けとった。
あのネズミの星には、わたしも着陸して調べたことがあった。その時は動物を追いはらうガスを持って出たので、やられないですんだのだ。調べているうちに、ほら穴のなかに笛のあるのを見つけた。ネズミを追いはらう音をだす笛だ。だから、ノブオに知らせることができたのだよ。
話が笛のほうにずれてしまったな。
丸い宇宙船のやつらは、その時もあばれまわっていた。美しいものをこわすのが、楽しくてしょうがないらしいのだ。
しかし、そのうち、飛び立って帰っていった。だが、これで終りというわけではないようだ。どこかへ戻って燃料を補給し、またやってくるにちがいない。
しかし、わたしの宇宙船はやられてしまっている。帰ることができない。助けにきてもらいたいが、そんな時にやつらが攻撃に戻ってきたら、どうしようもない。
危険だから来るな、と言ったのは、そのためだよ……。
*
ノブオのお父さんのモリ隊員の話は、こんなふうだった。ミキ隊員は目を丸くして言った。
「ひどい連中なのね。では、早いところ、この星から離れましょう。わたしたちが全滅しては、基地への報告ができなくなるわ」
しかし、その時、どこからともなくキーンという音がひびいてきた。モリ隊員はがっかりした声を出した。
「いや、もうまにあわない。やつらが、戻ってきたらしい。あの音がそうなのだ」
みなが城の外へ出てみると、丸い形のものが何台も空を横ぎっていた。まだ焼きはらっていない土地をみつけ、そこへ着陸しようというのだろう。ギラギラ光って、ながめていると気持ちが悪くなる。
ノブオが言った。
「ガンマ九号も、やられるんでしょうか?」
「そうなるかもしれない。やつらは、見さかいがないのだ。焼けあとの谷にでもかくせばいいかもしれないが、もうまにあわない。飛び立って逃げるのも、いまは危険だ」
「どうしたらいいでしょう……」
「いまは焼けあとに逃げるしかない。さきのことは、あとで考えるとしよう」
みなはかけだそうとした。しかし、それもおそすぎた。あたりの温度が急に高くなったのだ。野原のむこうから、やつらの宇宙船がころがってくる。すごい熱をまきちらし、草も木も燃えてしまう。
モリ隊員が言う。
「だめだ。お城にかくれよう。地下室なら、もしかしたら熱もとどかないかもしれない」
みなはお城の地下室に逃げこんだ。はじめはすずしかったが、だんだんあつくなる。汗が流れ出してくる。息も苦しくなる。
だが、地上には逃げられないのだ。そんなことをしたら、たちまち焼きはらわれてしまうのだ。
「ああ、あついなあ……」
と、ノブオが言った。ぐったりしていたペロが、ふいに起き上がった。そして、壁についているかざりにとびついた。金属でできた花の形をしたかざりだ。
ギーッという音がしはじめた。どこからか、すずしい空気が出てくる。見まわすと、それは部屋のすみの床からだった。
床に穴があいたのだ。地下道なのだろうか。みなはそこに入る。石段がついていて、入り終ると、上のほうでふたがしまった。
奥にどんな危険が待ちかまえているかわからないが、いまのままよりはいいのだ。地下の道にはあかりがともっており、しばらく進むと大きな部屋があった。
「すごいなあ……」
ノブオをはじめ、みんなは驚いた。なんのためのものかわからないが、すばらしい装置が、壁いちめんに、並んでいるのだ。しかし、いまは、あつさから助かったことでほっとし、装置を調べるどころではなかった。
「これから、どうなるの……」
と、ノブオが言ったが、だれも答えなかった。わかりっこないのだ。なにか言えば、がっかりした気分が強まるにきまっている。その時、どこからともなく声がした。
「みなさまがた……」
だれもがおたがいの顔を見た。しかし、声を出した者はいなかった。だが、気のせいでもない。まぼろしのような声が、また話しかけてきたのだ。
「みなさまがた……」