まず最初はAさんからのプレゼント。勉強会でお会いするとそっと私に差し出された。
「胡瓜食べて下さる?」「いただきます」遠慮がちにナイロン袋に入れてくださった胡瓜は、Aさんの清楚な人柄そのままに細くて真っ直ぐだった。御主人を白血病で亡くされたAさん。さみしさから元気になられてよかった。今朝庭から採ってきて下さったのだろう。胡瓜はみずみずしく御行儀よく袋の中で並んでいた。
家に帰りほっとしていると、玄関の網戸があく。「斎藤さん!胡瓜食べる?」「いただきます」「ごめんね。少し太くなりすぎて」今度はBさんからである。Bさんは地域のお世話や高齢の母上の看護をされている。働きもののBさんそのままに、胡瓜はたくましく堂々としていた。電話がかかる。
「もしもし。Cですけれど先日は美味しい食事を届けて下さりありがとう!胡瓜といんげんが畠で少し採れたので知人にことづけるので、受けとって下さいね」
「ありがとう」Cさんも一人ぐらし。リューマチを長年患い、その上心臓の手術。足を骨折されたが努力の甲斐あり現在はゆっくりと歩く事も出来られて、編物を公会堂で教えられる迄に回復された。強い精神の方だと尊敬している。足が不自由でも胡瓜の苗を育てていらっしゃったなんて知らなかった!
そして最後はDさんからの、今度は胡瓜のぬか漬けのプレゼント。Dさんも一人暮らしである。地域の役員として忙しくされながら社交ダンスを華やかに踊られる。ダンスの発表会に始めて招待された私は、Dさんの若々しく、しなやかで美しい姿に感嘆。黄色のドレスがよく似合い、まるで宝塚の世界のようだ。その際撮った写真を届けるとDさんはあの華やかな姿から一転。素顔に戻られ、香りのよいぬか漬けを下さった。ダンスとぬか漬けに人はいろんな面を持っているのだなあと驚き又々感動する。
今日いただいた沢山の胡瓜を食卓に並べてみる。どの胡瓜もみずみずしいが色も形もそれぞれ違う。胡瓜を育てて下さった皆さんの人生もそれぞれに違い、それぞれの人生をたくましく精一杯生きていらっしゃる。暑い夏の太陽にまけずに育っている胡瓜。そんな胡瓜にまけない様人もそれぞれの立場で輝いているのだ。常日頃さりげなく私の周りにいて下さる方々だけど、みんな私の人生の大先輩でありそして先生なんだと、個性あふれた胡瓜をいただいたおかげで痛感したのだった。
「ありがとう。キューリさんたち」声をかけながら、大切に冷蔵庫に納めた。