うずまき模様のかりんとう、ゼリー菓子、海苔のついたおかきの時もあった。一度に沢山取るとバレてしまう。お菓子の減り具合に合わせて一個二個…というのがミソなのだ。
フフフ。やっぱり全然気づいていないみたいだ。もうちょっと隠し場所工夫したほうがいいよ。おばあちゃん。
子供の頃、祖母が隠しているお菓子をこっそり盗み食いしていた。もともと食い意地が張っているのに加え、いけないことをしているドキドキ感がたまらなかったのだ。
何故か、祖母の思い出は食べ物の記憶と共に蘇る。祖母の作る焼きおにぎり、おから炒め。よく祖母が炊飯器のご飯の上に乗せておくジャムパンは、ホワホワあつあつでトロリと溶けたジャムが美味しかった。
祖母は真面目でしっかりした女性だった。若い時に祖父を亡くしてから、家業である店を守り、女手一つで私の父達を育てたそうだ。幼い頃の私にとっては「優しいおばあちゃんだった」。
小学校高学年まで夜のトイレは祖母について来てもらわないと行けなかったし、父や母に怒られた時は泣きながら祖母の部屋に逃げ込んだ。思春期を迎え小生意気になり、色々ワルさしても祖母だけは何も言わず味方でいてくれた。
そんな私も就職して家を離れ、祖母も老人ホームに入居することになり、いつの間にか会う回数が減っていった。
そして、結婚と妊娠の報告するため久々に祖母に会いに行った日、祖母の姿を見てはっとした。こんなに小さく細くなっていたなんて…祖母と共有してこなかった沢山の時間を今更ながら、悔やんだ。
それからは、できるだけ祖母に会いに行くようにした。生まれた娘も連れて行った。
祖母はひ孫のムチムチした足を撫でては微笑んでいた。
今年の秋、祖母が亡くなった。九十二歳だった。いつの間にか眠るように逝ったそうだ。
お通夜は翌日に行われた。
私と母と娘。料理をつつきながら、祖母の思い出話をする。まるで女子会みたいだな。と思った。
「最後までおばあちゃんが何を考えているのかわからなかったわ、私。」
と母が言った。
母がそんな事を言うのは何だか意外だった。
「そうかなぁ…裏表の無い人じゃない。」
私が言うと、母は目を閉じゆっくりと頷いた。そしてまた話し始めた。
「ホームのスタッフさんから聞いたんだけど、おばあちゃんお菓子を隠してたんだって、箪笥の中に。」
私は少しドキリとした。
「でね、スタッフさん言ったんだって『宮さん。隠していたら、私達がもらっちゃうよ。』って。そしたらおばあちゃん何て言ったと思う?」
祖母はいったいどんな顔をしたのだろう。少しワクワクしながらも料理に箸を伸ばす。
「おばあちゃん二ヤッとして『駄目だよ。それはひ孫が食べるんだから』だって。」
思わず箸が止まった。歪んでゆく視界の中に栗ご飯が見える。突然記憶が蘇ってくる。
私は祖母の横で栗を剥く手伝いをしている。
「ねえねえ、おばあちゃん。私がお嫁さんになるまでは長生きしてね。」
「うーん…どうかねえ。頑張ってみようかねえ。」
おばあちゃんは私との約束も、秘密も携えてあっちに逝ってしまったんだ。
愛おしさで胸がいっぱいになった。
「またこうして女子会をしようね。」
私は祖母の遺影見つめ、少ししょっぱい栗ご飯を頬張った。