「おう、いこう、いこう」となると藪へ行って軒まで届く竹を三本切ってくる、一人に一本ずつ竹が要るのだ。
当時子供は、カスミ網は誰でも持っていて、網の両端をそれぞれの竹に結びつける。夕方になると、雀が軒のどこへ寝に入ったかを見届けて、夜になるのを待って出かける。二人が網の両端の竹を持って目的の軒下へこっそりと行く、軒下にくると声をひそめて
「もっと引っ張れ、網がたるんどるぞ」
「よっしゃ」と両方の竹を引っ張って網をピンと張る。
「張ったぞ、ヤレッ」と声がかかる。三人目が軒下を竹でコトコトと、下から突き上げると雀が驚いてパッと外へ飛び出す、そこへ網が張ってあるから、ポロリと網にかかるが、「捕れた!」と、両端の竹を持ってる人が、網を緩めると「ありがとう」と、いわんばかりにパアーと飛んでいってしまう。
「陸ちゃん、かかっても網を緩めるな!逃げてしまったじゃないか」
「ごめん、こんどは大丈夫だ」
「じゃあ次だ、Aおじさんの家に行くぞ」
「あすこはいやじゃ、この間も瓦がずれる言って怒られたがな」と心ちゃんは不安顔だ。
「大丈夫、だいじょうぶだよ、こっそりやればいいがな」とAさんの家に向かう
「大きな声を出すな、家の人に気づかれないようにやれよ」
「OK」網を引っ張りコトッと一回叩くと中から「コラッ!」ともう声がかかる、これはやばいぞと思ったが後の祭り、おじさんが出て待ち構えている。
「逃げろ!」おじさんも三人は捕まえられないので、残りの二人は一目散に竹をひきずって逃げる。網はやぶれて穴だらけだ。
「陸ちゃん網が穴だらけで、もう使えないぞ」
「うん、今度は心ちゃんの使わんか」と懲りない連中だった。
翌日、登校の時、昨夜の話が出て捕まった旺ちゃんに
「旺ちゃんゲンコツ喰らったか」
「いいや、ゲンコツはなかったが今度やったらただではおかんぞと、ひどく怒られたよ」
「そうか今度からは、あのおじさんの家は外さんといけんなァ」
「おう、そうせんといけんなァ」と、みんな反省もせず次に捕りに行く話になる。
捕まえた雀は小さな木箱に金網を張って、米と水をやって飼っていた。
朝早くからチュンチュンと鳴いて起こしてくれていたが、あれは雀が逃がしてくれと懇願していたのかもしれない?‥‥。