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六月のマフラー

时间: 2017-09-03    进入日语论坛
核心提示:私は一年近く闘病生活を送っている。それまで仕事一辺倒だった私は、家族と過ごす時間もほとんどなかった。八歳の息子がいるが、
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私は一年近く闘病生活を送っている。それまで仕事一辺倒だった私は、家族と過ごす時間もほとんどなかった。八歳の息子がいるが、父親としていろんなことをいっしょにしたい時期に何もしてやれず、寝顔を見るだけの生活が何年も続いた。一日のうち、自宅にいるのはほんの数時間、寝る間もなく、ほとんど職場にいた。
そして、とうとう、心も身体も悲鳴をあげ、病気になった。いったい自分はこれまで何をしてきたのだろうと、後悔ばかりの日が続いた。家族を犠牲にしたうえに、自分の希望も失った。情けなくて、悔しかったが、それでも泣くこともできず、生きていても死んでいるかのような数ヶ月間だった。
 
そんな私に、妻と息子は、いつもと変わらぬ笑顔でいてくれた。季節は冬を迎え、感情まで失った私には、それまでに感じたことのないほど寒い冬となった。身体中が冷え切って震えが止まらない。何枚重ね着をしても寒くてしようがない。そんな姿を見ていた息子が、ある日、「パパにマフラーをプレゼントしてあげるね」と言ってくれた。
それからずいぶん時間が経ち、私の病状も少しずつ良くなっていった。そして今年の父の日。息子が大きな袋を抱えてやってきた。「パパ、約束していたマフラーができたよ」そう言って、袋の中から、何種類ものマフラーを取り出した。「この中から、パパのお気に入りのものをどうぞ」と、素敵なマフラーを次々と見せてくれた。
 
あの冬の日以来、息子は、ずっと自分ひとりでマフラーをコツコツと編み続けていたのだった。聞けば、牛乳パックと割り箸で「編み機」を作ったのだとか。毛糸はお小遣いを使って、自分でお店に行って買ったという。
「ありがとう、ありがとう…」それ以上の言葉が出てこなかった。
「パパには、これとねぇ、それから…これが似合うと思うんだ」と、全部のマフラーを見ながら、息子のおススメのマフラーを二つもらった。
六月にマフラー。だが、毎日少しずつ、誰の力も借りずに、全部自分で編んだマフラー。
あれからずっと編んでいたのか…。妻でさえそのことを知らなかったという。あの日の息子の言葉は、息子のせいいっぱいのこころだった。毎日マフラーを編み続けて、約束を守ったのだ。
 
私は思い出した。まだ息子が小さい頃に、男同士の約束をしていたことを。「がんばるこころを忘れない。失敗しても、うまくできないことがあっても、絶対にあきらめない」と。
その約束を息子は忘れていなかった。そうだ。パパもがんばるこころを忘れてはいけない。
絶対に元気になる。
父の日にマフラーを巻いて、息子からかけがえのない大切なものをもらった。パパもがんばる。絶対にあきらめない。がんばるこころを忘れない。
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