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言葉をください53

时间: 2020-05-15    进入日语论坛
核心提示:蛍 の 夜 によほど遠くから来たのであろう。オートバイは埃りっぽく荒い息を吐いていた。「星加《ほしか》くんか? よく来たよ
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蛍 の 夜 に

よほど遠くから来たのであろう。オートバイは埃りっぽく荒い息を吐いていた。
「星加《ほしか》くんか? よく来たよく来た」
蛍の闇のそのまた木下闇から窯主の声がした。
「さあ、荷を下ろしてこっちへどうぞ」
星加と呼ばれた青年が灯の下へ坐った。
彼は広島の人で大工の棟梁をしながら全国の窯元をまわっているのだという。
「一年の筈が二年かかりました。こんどはぜんぶ片付けて来ました。北海道へ行こうと思って。でもどうしてもここを通過できなかったです。なつかしくて会いとうなって……」
「ほんとによく来た。何日泊まっていってもいい。北海道もいいだろう。しかし、君がもしここで腰を落ちつける気があるのなら、そうだな、秋ごろから来たらいいよ。君のための手ろくろが何年も前から用意してある」
青年の目がぱッと輝いた。
「ほんとうですか先生!」
「ほんとうだ。まず寝る場所はある。食事も一緒に食べたらいい。酒もある。その上で、いくら欲しいか言いなさい。遠慮することは無用だ。君はお母さんを養っているんだ、要るだけ言いなさい。今夜それを取り決めよう」
「……」
「その代り私に君を置いておく力がなくなったら出ていってもらう。私のことは心配しなくていいんだ」
「……」
青年は顔を覆い絶句したままだ。やがて彼は笑いだした。笑いながら泣いている。
「いやあ、夢のようで、夢のようで。どうしたらいいのか」
私は偶然にも師弟として結ばれる二人の男の要の位置に坐っていた。火の龍を見たのとおなじ谷にその夜は蛍の客として招かれていたのである。どんな事情かは知らないが私は忽《たちま》ち彼の涙に感染した。
外へ出ると六月の闇。栗の花の匂い。
蛍がとぶ。すいーッととぶ。草の中に息づく。川面に光る。樹の中に光る。
蛍は私のてのひらを照らしては露を求めて戻っていく。
百匹の蛍を握りつぶすかな
 という激情がうそのようだ。今は何もかもがやさしい。やさしさの中で熱いものがこみあげるのは、長い歳月の果てに結ばれた師弟の影が窓に映っているからであろう。
短く聞いた話では、ずっと前にここを訪ねた青年は柿の木の下で寝ていたのだという。寝袋を持って自炊して、木を割って水汲んで、それでも土にふれさせて貰えなかった弟子と、そのゆとりのなかった師。
彼はこの秋から他の多くの弟子たちにまじって火の龍を燃やしつづけることだろう。人と人とが会うことの美しさを蛍は知っていたにちがいない。
細道や蛍の宿に客があり
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