だいたい、今日通って来た道も落石→崩壊が十分あり得るルートってことだろ。この山間の村だって、いつ大岩の直撃を受けてもおかしくないんだ。落石で洋式便器が崩壊なんてことになったら、レウトさん(彼女)怒って手がつけられなくなるよきっと。そしたらガディ(彼氏)が工具を買って来て、岩を切り出して洋式便器を自作することになるよきっと。
それにしても、道が崩壊なんて……。そんな簡単に崩壊しちゃったのか。ほうかいほうかい。それじゃ、戻るしかないんでしょこうなったら? そうなのね通訳のあなた?
「ところが、香格里拉に戻るバスも明日は無いんだ。ここのところ不定期でな、3日に1本くらいしか出ないんだ。でも安心してくれミスターガディ、出発まで何日でも我がホテルの部屋を使っていいぞ」
「シット! なんてことだ! 冗談じゃねえ。オレは体調がベリーバッドなんだ!! 高山病にかかったんだよ! 早くここを出ないといけないのに!! ……くそ、とりあえずメシだ。メシを食いながら考えよう。なあ、レストランに連れて行ってくれよ」
「高山病か。それは厄介だな。レストランはこっちだ」
たしかに、この山の中の孤立した村で何日も過ごすのは辛い。しかもうかうかしていたら逆方向の道も落石で崩壊するかもしれない。そうなったらそれこそ本当の孤立で、暇つぶしに誰かを殺そうとしてもこの村はいわば大きな密室であり、殺人事件が起きるともれなく内部の者の犯行だということがわかってしまうため殺し辛いじゃないか。しかもそういう状況では、たまたま身近に名探偵が居合わせている場合が多いんだよこれが。
それはそうと、夕メシ。さっきからの流れでオレも一緒に夕食会に参加することになってしまった。通訳にいさんがおすすめの安食堂へ連れて行ってくれようとしているのだが……
「なあ、オレはノンスモーキングの食堂がいいんだ。ノンスモーキングレストランを探してくれ」
「私は、クリーンなところでないと食べられないわ。クリーンレストランにしてよね」
「そんで、さっきも言ったけどオレ高山病で頭痛いんだ。なるべく人が多くないところに連れて行ってくれ」
こいつら……。