「こらっ、起きろ!」
いきなり毛布をはぎとられ、腕をつかまれて、ベッドから引きずり出された。
赤鬼のような形相(ぎようそう)の父の顔——。でも、なにがなんだかさっぱりわからない。頭には鈍(にぶ)い痛み。どうやら二日(ふつか)酔(よ)いの気配(けはい)……。
私は十八歳、一年遅れているから、まだ高校二年生。それが二日酔い? そう、私は中学二年のときからお酒を飲んでいた。
「なに、ねえ、パパ、なによ。そんなに引っ張ったら、腕、もげちゃうよ。痛い、やめてよ」
「うるさい。このばかやろう。こっちへこい」
腕をわしづかみにされたまま、部屋から引き出され、さらに階段も引きずりおろされて、連れていかれたのはガレージだった。私には、まだ事態が理解できない。
「アンナ、これはなんだ」
母が乗っていた白いムスタングのオープンカー。別の車に乗り換えて、これはもう売ってしまうというから、「それなら使わせて」ということで、その当時、私が乗りまわしていた。
運転免許をとってまだ半年しかたっていない。
「なにって、パパ、車じゃん」
目は覚(さ)めきっていないし、頭ももうろう。視界はぼんやりしていて、よく見えない。
「ばかやろう、目を覚ましてよく見ろ」
頭をどつかれて、ふとわれに返った感じ。見れば、車はあちこちボコボコの無残(むざん)な姿ではないか。
「あれっ、どうしたの、これ。ひどいじゃん」
「なにがどうしたのだ。おまえ、昨日(きのう)どこへ行っていた」
そう言われても、急には思い出せない。たしか友だちに誘(さそ)い出されて、この車で青山(あおやま)に行った……。
「このドア、開けてみろ」
「ん?」
いくら引いても動かない。鍵(かぎ)はかかっていない。窓ガラスが半分開いていたから、頭を突っ込んで内側から開けようとしてみたが、やはり開かない。
「あれっ、ねえ、パパ、どうしちゃったんだろう」
「こっちが聞きてえよ。どこかにぶっつけたから、開かなくなっちまってるんだ。ドアだけじゃないぞ。そこらじゅうボコボコじゃないか。どうしたのか説明してみろ」
青山へ行って、友だちと合流したら、みんな酔っぱらっていて、一緒に飲もうという。お酒を飲むつもりなら、私は車では行かないから、
「まずいよ。車で来ちゃったから」
「そんなの、どっかに置いてけばいいじゃん」
「それもそうだよね」
みんなとすごい勢いで酒盛(さかも)り。それから先の記憶(きおく)は全然ない。気がついたら、父に叩(たた)き起こされて、ひきまわされていた。
意識がはっきりしているくらいなら、当然、車をどこかの駐車場にでも預(あず)けて、タクシーで帰宅したはず。
完全に酔っぱらっていたから、渋谷の自宅まではいくらの距離もないから大丈夫(だいじようぶ)と、軽い気持ちで運転して帰ってきてしまったのだと思う。そんなのは弁解にもならないし、それが運転と呼べるものなら……の話だけど。
状況から判断すると、自分ではまっすぐ走っているつもりが、車までフラフラの千鳥足(ちどりあし)、ボカンボカンとあちこちにぶつかりながら、どうにか自宅のガレージまでたどりついたらしい。ドアが開かなくなってしまったから、窓ガラスをなんとか半分下ろし、そこから車の外に脱出して、家の中に転(ころ)がり込んだ……たぶんそんなところだろう。
ほかの車や人にぶつからなかったのは、向こうがちゃんとよけてくれたからだろうか。塀(へい)や電柱はよけてくれないから……。
途中でパトカーにつかまっていたら、間違いなく留置場(りゆうちじよう)入り。週刊誌、ワイドショーをにぎわすことに。
「梅宮辰夫(うめみやたつお)の娘(十八歳)、酔っぱらい運転でつかまる。まだ高校生だった……」
それはかろうじてまぬかれたけど、父の 雷 (かみなり)は強烈だった。
「今日から一年間、おまえは運転禁止だ」
免許証を巻き上げられ、ボコボコのムスタングは、そのまま廃車(はいしや)。
いまにして思えば、若気(わかげ)の至(いた)りとはいえ、たいへんなことをしてしまった。大反省(だいはんせい)して、その後は酔っぱらい運転はいっさいしていません、はい。