「『JJ』の仕事ができることになったから、約束どおり、うちの事務所と契約(けいやく)してくれるね」
嘘(うそ)でかためた卒業旅行も無事終了、高校も無難(ぶなん)に卒業の運びとなった。
スチュワーデスへの道は、指定された短大に入れそうもないのであきらめたけど、なにもしないわけにはいかないから、とりあえず、御茶(おちや)ノ水(みず)にある文化学院という専門学校に通(かよ)うことになった。カールスモーキー石井(いしい)(石井竜也(たつや))さんなどが出た、一風(いつぷう)変わった人たちがいるアート系の学校。
思いがけず、例のスカウトマンから連絡があった。
私としては、しつこいスカウトマンを追い払って、スカウトの話はとっくに終わったものと思っていた。自信もなければ、心の準備もない。その種の勉強もなにもしていない。
ただ、そのときの私には、働くあてが必要だった。
高校三年のとき、なにかのことで父とけんかになり、ひっぱたかれたあげく、例によって、いつもの決まり文句。
「ばかやろう。だれのおかげでメシが食えてると思ってるんだ」
そのときは私も本気で頭にきて、口にこそ出さなかったけど、心の中では、思いきり怒鳴(どな)り返していた。
「ちくしょう。だれがおまえの金なんかでメシを食うかよ。小遣(こづか)いだって、もらうものか。どうせろくな額もくれないくせに」
実際にはもらっていたんだけど、もともとちょっぴりで、好きな洋服も買うことができない。そのときこそ、絶対に自活しようと強く心に誓(ちか)った。高校を出たからには、きちんとした仕事につかなければいけないだろうと思っている矢先だった。
私はこうしてモデルへの道を歩むことになる。もうそろそろ十九歳も終わりごろのことだった。