ある日の事、男が山で仕事をしていると突然おそろしい人食いオニが現れて、男をパクリと飲み込んでしまいました。
でも、気の強い男の人は、少しも恐がりません。
「ほう、これがオニののどか」
男が先に進むと、赤い壁に囲まれたところへ出ました。
ふと前を見ると、上からひもの様な物が三本ぶらさがっています。
「なんだ、これは?」
男は、一本のひもを引っぱってみました。
そのとたんに、オニが大きなクシャミをしたのです。
「は、は、はっ、はくしょん!」
(なるほど、これはクシャミの出るひもだな)
男は、もう一本のひもを引いてみました。
するとオニは、大きな口を開けて、
「わっはっはっは、わっはっはっは」
と、笑い出したのです。
(おもしろくなってきたぞ)
男は、最後のひもを引っぱってみました。
するとさっきまで笑っていたオニが、急に泣き始めたのです。
「うぇーーん、うぇーーん」
(これはおもしろい。クシャミのひもに、笑いのひもに、泣きのひもか。・・・もし、いっぺんにひもを引っ張ったらどうなるだろう?)
男の人は三本のひもを一緒ににぎりしめると、思いっ切り引っ張ってみました。
さあ、大変です。
はくしょん!
わっはっはっは。
うぇーーん、うぇーーん。
オニはくしゃみをしたり、笑ったり、泣いたりと大騒ぎです。
ですが男は、ひもを引っぱるのをやめません。
オニは苦しくて苦しくて、今にも倒れてしまいそうです。
(さあ、そろそろ出るとするか)
男は三本のひもをはなすと、クシャミのひもを力一杯引っ張りました。
は、は、はっ、はくしょん!
オニはもの凄いクシャミをして、口から男をはき出しました。
男は、苦しそうに涙を流しているオニに言いました。
「やい、オニよ。もう一度飲み込んでみるか?」
「ブルブルブル。とんでもない!」
オニは首をブンブンと横に振ると、あわてて逃げてしまいました。
そんな事があってから、オニはもう二度と人間を食ベなくなったという事です。