ある日の事、おばあさんが川へ洗濯に行くと、ドンブラコ、ドンブラコと大きなうりが流れてきます。
「おやおや、何て大きなうりでしょう。家へ持って帰って、おじいさんと二人で食ベましょう」
おばあさんはうりを拾い上げると、家へ持って帰りました。
うりが大好物なおじいさんは、おばあさんが持って帰ったうりを見て大喜びです。
「こんなに大きなうりは、初めて見た。・・・よし、わしが切ってやろう」
おじいさんが包丁(ほうちょう)を振り上げると、うりはひとりでにパカッと割れて、中から可愛らしい女の子が飛び出してきました。
「おや?」
「まあ!」
子どものいないおじいさんとおばあさんは、大喜びです。
うりから生まれた子どもなので、名前を『うり子姫』と名づけました。
赤ちゃんの頃から可愛い子でしたが、うり子姫は大きくなるにつれてますます可愛らしくなり、やがて成長すると『けしの花』の様な美しい娘になりました。
そのあまりの美しさに、お殿さまがお嫁にほしいと言ってくるほどです。
うり子姫は機(はた)をおるのがとても上手で、毎日楽しそうに機おりをしながら、おじいさんとおばあさんが帰って来るのを待っていました。
ある日の事、うり子姫がいつもの様に一人で機をおっていると、やさしそうな声で戸をたたく者がありました。
「もしもし、可愛いうり子姫や。この戸を、開けておくれ。お前の上手な機おりを、見せてほしいのさ」
けれども、うり子姫は戸を開けずに言いました。
「いいえ。
戸を開ける事は、出来ません。
もしかすると、あまのじゃくという悪者が来るかもしれないから、誰が来ても決して戸を開けてはいけないと、おじいさんに言われているのです」
するとその声は、もっとやさしい声で言いました。
「おやおや、あのあまのじゃくが、こんなにやさしい声を出すものかね。大丈夫だから、開けておくれ」
「・・・でも、戸を開ける事は出来ません」
「それなら、ほんの少しだけ開けておくれよ。ほんの少し、指が入るだけでいいからさ」
「・・・それなら、指が入るだけ」
うり子姫は、ほんの少しだけ戸を開けました。
するとその声が、またやさしい声で言います。
「ありがとう、お前は良い子だね。
でも、もう少しおまけしておくれよ。
ほんのもう少し、この手が入るだけでいいからさ」
「それなら、手が入るだけ」
うり子姫は、また少し戸を開けました。
「お前は、本当に良い子だね。
でも、もう少しおまけしておくれよ。
ほんのもう少し、この頭が入るだけでいいからさ」
「それなら、頭が入るだけ」
うり子姫がまた少し戸を開けると、戸のすきまから頭を突き出したあまのじゃくが、するりと家の中へ入って来ました。
「けっけけけ。
お前は、バカな娘だ。
じいさんとの約束を破って、おれさまを家に入れるなんて」
あまのじゃくはうり子姫の着物をはぎ取ると、うり子姫を裏山の柿の木にしばりつけました。
それからあまのじゃくはうり子姫の着物を着て、うり子姫に化けて機おりを始めました。
間もなく、おじいさんとおばあさんが帰って来ました。
「うり子姫や、さびしかったろう」
するとあまのじゃくが、うり子姫の声をまねて答えました。
「ええ、とってもさびしかったわ」
その時、家の前が騒がしくなりました。
うり子姫をお嫁にもらう為に、お殿さまのカゴが迎えに来たのです。
「うり子姫や、お殿さまのお迎えが来たよ。これでお前は、何不自由なく幸せになれるよ」
おじいさんとおばあさんはとても喜んで、うり子姫に化けたあまのじゃくをカゴに乗せました。
カゴの行列はお城へ向かって、裏山の道を登って行きました。
すると柿の木のてっペんで、カラスがこんな声で鳴き出しました。
♪カー、カー、カー、カー、かわいそう。
♪うり子姫は、木の上で。
♪おカゴの中は、あまのじゃく。
「おやっ?」
みんなはそれを聞いて、うり子姫がしばりつけられている柿の木を見上げました。
「まずい、逃げよう」
うり子姫に化けたあまのじゃくはカゴから逃げようとしましたが、お殿さまの家来に捕まって首をはねられてしまいました。
こうして本物のうり子姫がカゴに乗ってお城へ行き、お殿さまのお嫁さんになって幸せに暮らしたのです。