茂作は働くのが大きらいで、いつもブラブラと遊んでは、お酒ばかり飲んでいます。
そのために二人はとても貧乏で、その日の食べ物にも困る暮らしでした。
ある日、茂作がお母さんに言いました。
「おれ、よその土地へ行って働いてくる。どっさりと金をかせいで来るから、待っていてくれ」
お母さんはうれし涙を流すと、家を出て行く茂作にこつこつとためていたお金を全部渡して、茂作を見送りました。
茂作が村を出てから、三年の月日が過ぎました。
茂作からは、手紙一つありません。
でもお母さんは、いつか立派になった茂作が帰って来るのを待ち続けました。
やがて、大みそかがやって来ました。
ほかの家ではお米をたいてお正月の準備をしますが、貧しいお母さんの家にはお米がありません。
あるのは、少しばかりのいもだけです。
「いもでも、ないよりはましだわ。今夜もいもを煮て、お正月の準備をしましょう」
お母さんが川でいもを洗っていると、旅人が声をかけてきました。
「すみません。旅の途中でお金を落としてしまい、昨日から何も食べていません。なにか食べ物を、わけてもらえませんか?」
「はい」
お母さんはやさしくうなずくと旅人を家に連れて行き、夕飯のために煮ておいたいもを出してやりました。
旅人はよほどお腹が空いていたのか、両手でいもをつかむとものすごい早さで食べてしまいました。
「・・・あの、申しわけないのですが、もう少しいただけないでしょうか?」
「はい」
お母さんはニッコリ笑うと、かまどに火をつけて、お正月用のいもを煮てあげることにしました。
そしていもが煮えるまでの間、旅人に心配している茂作の事を話しました。
「うちの息子の茂作が、よそで働いてお金をかせいで来るんですよ。お金なんていりませんが、立派に働いて一人前になった茂作の姿を見るのが、わたしのゆいつの楽しみなのです」
その話を、外で聞いている者がありました。
それは三年前に村を出て行った、茂作です。
茂作は三年の間、働きもせずにぶらぶらと遊んでいました。
そしてお母さんにもらったお金を全部使い果たしたので、しかたなく家に帰ってきたのでした。
(おふくろ・・・)
お母さんの話を聞いているうちに茂作は自分が恥ずかしくなって、そのまま家を離れようとしました。
するとその時、旅人がお母さんに言いました。
「あの、山に荷物を置いているから、ちょっと行ってきますね」
それを聞いた茂作は見つかってはまずいと、あわてて物置きのかげにかくれました。
旅人は家を出ると、山の方へ歩いて行きました。
そして間もなく、山の方から旅人の大きな声が聞こえて来ました。
「いもは、煮えましたかー」
お母さんも、大きな声で答えました。
「いいえ、まだですー」
しばらくすると、また旅人の大きな声がしました。
「いもは、煮えましたかー」
「いいえ、もう少しですー」
旅人は山の上の方へ行ったらしく、声がだんだん遠くなっていきます。
「いもは、煮えましたかー」
「はーい、いもが煮えましたよー」
お母さんが答えると、山の上から旅人が言いました。
「それじゃあー、戸を開けて待っていてくださーい」
お母さんが言われた通りに家の戸を開けると、突然山から強い風が吹いてきて、隠れていた茂作の体を木の葉のように舞い上げました。
そして茂作は風に運ばれて、ドスンと家の中に落とされました。
「しっ、茂作!」
お母さんが驚きの声を上げると、続いて風に乗って、ドスン! ドスン! ドスン! と、たくさんの荷物が茂作の後ろに落ちてきました。
茂作がふり返ると、後ろにはお金やお米や布が山のように積んであります。
「茂作、これはいったい?」
「いや、おれにも何がなんだか」
飛んで来た荷物の中に、一通の手紙がありました。
二人が手紙を開いてみると、そこにはこう書かれてありました。
《おいしいいもでした。二人とも、お幸せに。旅人より》
お母さんは思わず、旅人が消えていった山に手を合わせました。
「さっきの旅人は、神さまにちがいないわ」
茂作も、お母さんと一緒に手を合わせました。
「ああ、きっとそうにちげえねえ」
それからの茂作は本当によく働くようになり、お母さんを大事にして幸せに暮らしました。