ある日、玄通が浦辺(うらべ)の町へお酒を売りに行こうと、高崎山(たかさきやま)のふもとを歩いていると、どこからか、
「キーッ、キーッ」
と、苦しそうな声が聞こえてきたのです。
「なんだ、あの声は!?」
玄通が急いで声のする方へ行ってみると、サルが地面を転げ回っていたのです。
見てみると大きな力二がサルの片足を、ギューッとはさんでいるのでした。
かわいそうに思った玄通は、急いで力二を取ってやりました。
そしてサルに、
「よしよし。さぞ、痛かったろう。だけどな、カニもお前やわしと同じ生き物なんじゃ。許しておやり」
と、言い聞かせる様に言うと、サルとカニを放してやりました。
次の日、玄通が再び高崎山のふもとを通ってお酒を売りに行くと、
「キキーッ、キーッ」
と、またサルの声がします。
見ると昨日のサルが、しきりに玄通を誘っているようです。
「なんじゃ? わしに、来て欲しいのか?」
玄通は不思議に思いながらも、サルについて行きました。
するとそのうち、水がわき出る大きな岩の前に出ました。
「キキーッ、キキーッ」
サルがそのわき水を指さすので、玄通は何気なくそのわき水をなめてみました。
「・・・!! こっ、これは酒じゃ。しかも上等の酒じゃ」
なんとそのわき水は、天然のお酒だったのです。
サルは助けてもらったお礼に、サル仲間に伝わる秘密のお酒を玄通に教えてくれたのでした。
玄通はそのお酒を売って歩き、やがては九州一の酒長者になりました。
そのお酒は『サル酒』と呼ばれ、今でも高崎山ではこの伝説にちなんでサル酒が売られているそうです。