ある日の事、おばあさんは目の病気にかかってしまい、目がだんだんと見えなくなってしまいました。
息子夫婦は色々な医者におばあさんの目を診てもらいましたが、どの医者にもおばあさんの目を治す事は出来ませんでした。
そんなある日、旅のお坊さんが突然やって来て、息子夫婦にこう言ったのです。
「このばあさまの目の病気は、普通の薬では治せません。ただ一つの薬は、子どもの生き肝です」
それを聞いた息子夫婦は、おばあさんの目を治したいけれど、子どもの生き肝なんか手に入るはずがないとあきらめました。
すると、この話を盗み聞きしていた孫娘のお虎が、その夜、納屋で首をつって死んでしまったのです。
そしてお虎の着物の中には、
《大好きなばあさまに、わたしの生き肝を食べさせて下さい》
と、覚えたばかりの字で書いた手紙が、入っていたのです。
娘を亡くした息子夫婦は悲しくて涙が止まらず、何時間も泣き続けました。
それでも、お虎の気持ちを無にするわけにはいかないと、おばあさんには目の薬だと言って、お虎の生き肝を食べさせたのです。
するとその途端、おばあさんの目に光が戻り、目が治るどころか今まで以上によく見える様になったのです。
「見える! 目が見えるよ!」
喜んだおばあさんは、さっそく息子夫婦に言いました。
「お虎は、どこへ行った? はやくこの目で、可愛い孫娘の大きくなった姿を見てみたい」
「・・・それが、実は」
隠していても仕方ないので、息子夫婦はお虎がおばあさんの目を治す為に、首をつって死んでしまった事を話したのです。
「ああ、お虎。何て事を・・・」
おばあさんは顔を真っ青にすると、その場にしゃがみ込んで一晩中泣き続けました。
そして、お虎のお葬式が終わると、おばあさんはお虎の冥福を祈る為に、三十三番の札所の観音さまにお参りをする事にしたのです。
おばあさんは何日も何日も巡礼の旅を続けて、とうとう最後の三十三番の観音さままで辿り着きました。
「お虎、ちゃんと、極楽へ行くんだよ」
おばあさんはお虎の可愛い姿を思い浮かべて、一生懸命拝みました。
すると、その時、
「ばあさま、ばあさま」
と、お虎の声が聞こえたのです。
おばあさんが目を開けると、なんとそこには死んだはずのお虎が立っていたのです。
「おっ、お前、どうして、こんな所にいるんだい?」
すると、お虎はにっこり笑って、
「うん、ばあさまに生き肝を食べさせようと死んで、あの世に行ったんだけど、そこへ、ばあさまに生き肝を食べさせたらいいと言っていたお坊さまが現れて、わたしをここに連れて来てくれたんだ」
と、言うのです。
それを聞いたおばあさんは、しっかりとお虎を抱きしめると、
「ああ、ありがたい事だ。観音さま、お坊さま、本当にありがとうございます」
と、何度も何度もお礼を言って、お虎の手を引いて家に帰って行きました。