「ごめん」
「はい、いらっしゃいませ」
「じいさん、ここのダンゴは、うまいと評判だ。わしにも一皿、もってまいれ」
「はいはい。どうぞ、めしあがってくださいませ」
茶店のおじいさんは、お茶とダンゴをはこんできました。
その時、おじいさんはさむらいの顔を見てびっくりしました。
「あれ、まあ!」
何と、おさむらいの耳はピーンと三角にとがっていて、顔のあちこちに茶色の毛が生えています。
(ははーん、このおさむらいはキツネだな)
おじいさんは正体を見抜きましたが、キツネはうまく化けたつもりで、むねをはっていばったかっこうをしています。
おかしくなったおじいさんは小さなおけに水を入れて、さむらいの前へ持って行きました。
「おさむらいさま、お顔と耳が少し汚れておいでのようです。どうぞ、この水をお使いください」
「ふむ、これはどうも」
うなずいたさむらいは、おけの中をのぞいてびっくり。
(コンコン、これは化けそこなった!)
キツネは、大あわてです。
「さあ、おさむらいさま。ごゆっくり、召し上がってくださいませ」
おじいさんがそう言っても、キツネには聞こえません。
キツネはダンゴも食べずに、そのまま山の方へ逃げていってしまいました。
次の日、おじいさんはたきぎをひろいに、山の中へ入っていきました。
すると、どこからか、
「おじいさん、おじいさん」
と、よぶ声がします。
おじいさんは見回しましたが、誰もいません。
「はて? 何のご用ですか?」
おじいさんが言うと、
「おじいさん、昨日はおかしかっただろう。大失敗だったよ。ウフフフ、アハハハ」
と、笑い声が聞こえてきました。
「ああ、昨日のキツネさんか。そう言えば、あの時はおかしかったな。アハハハ」
おじいさんも、大笑いしました。