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九、彼方へ(4)

时间: 2025-06-27    进入日语论坛
核心提示:心臓が苦しい。目を開けていることもできない。この荒い呼吸音は自分のものなのか。王子は立ち止まり、まえのめりに倒れこみそう
(单词翻译:双击或拖选)

  心臓が苦しい。目を開けていることもできない。この荒い呼吸音は自分のものなのか。

  王子は立ち止まり、まえのめりに倒れこみそうになって、だれかに抱きとめられたこと

に気づいた。

「さっき、大手町できみに言ったことは取り消す」

  清瀬の声が、すぐそばでした。「俺はきみに、こう言いたかったんだ。ここまで一緒に

来てくれて、ありがとう」

「合格」

  と王子はつぶやいた。

  走と清瀬は京浜急行で横浜まで出て、JRで小田原に向かった。人手不足なので、先ま

わりして芦ノ湖に向かい、五区を走る神童を迎える手はずになっていた。

  鶴見中継所にへばった王子を残すのは気がかりだったが、当の王子はこう言った。

「二人とも、僕のことはいいから、箱根に行って。僕はもう、走り終わったんだ。歩ける

ようになったら、勝手にホテルに行くよ」

  王子は横浜駅近くのホテルでテレビを見て、レース状況を把握する役目を担っている。

清瀬と走も翌日の出番に備え、今夜じゅうに箱根から戻って、同じホテルに宿泊する予定

だ。

  水分補給した王子が、なんとか身を起こせるようになったので、走と清瀬は鶴見中継所

をあとにした。

  清瀬が大手町から持ってきたベンチコートは、また王子が着ている。いまは走が、ムサ

のベンチコートを運んでいた。山を登ってきた神童は、これを着ることになる。人手もぎ

りぎりなら、ウェアもぎりぎりなのだった。

  正月二日の東海道線は、箱根駅伝を追いかける客や、初詣に行くらしい家族客で、座席

がほぼ埋まっていた。走はボックスシートにひとつ空きを見つけ、清瀬を座らせた。清瀬

はベンチコートのポケットから、メモ帳とボールペンを取りだした。

「王子のタイムは」

「一時間〇五分三十七秒でした」

  腕時計のストップウォッチ機能で確認し、走は答えた。清瀬はメモ帳にデータを書きこ

んでいく。

「すぐまえを行く動地堂大とのタイム差は十一秒。トップ六道大との差も、一分〇一秒

か。チャンスはまだいくらでもあるな。王子は大健闘した」

  寛政大の襷が鶴見中継所で王子からムサに受け渡されたのは、出場二十チーム中、二十

番目。予選会出場選手で編成された関東学連選抜チームは、選手個人のタイムは公式記録

として残るが、チームとしての順位はつかない。だから寛政大は、順位は十九位というこ

とになるが、一区を走り終えた段階で、名実ともにまごうかたなきビリであることに変わ

りはない。

  だが清瀬の言うとおり、ひっくり返すことの可能なタイム差だ。スローペースな展開

が、王子と寛政大に幸いした。まだレースははじまったばかりだ。

  携帯テレビは走が持っていたが、車内では映りが悪い。「こっちを試してみろ」と清瀬

に言われ、ラジオを受け取る。音声を拾おうとつまみをひねっているところで、清瀬の携

帯に着信があった。戸塚中継所で、三区を走るジョータのつきそいをしているキングから

だった。

「ハイジ、すげえことになった!  テレビを見ろ!」

「見られないんだが」

  と清瀬は言った。

  花の二区では大波乱が起こっていた。

  トップを行くのは、六道大と房総大。その二校を、鶴見中継所を九番目で襷リレーした

真中大が、猛然と追いあげてきたのだ。鶴見で二位だった横浜大は、反対に大幅に順位を

落としていた。

  三みつ巴どもえになった先頭集団の、意地と気迫がぶつかりあうデッドヒート。しかし

そのころ、下位集団でも目の離せない動きがあった。

  鶴見中継所では十八番目だった城南文化大が、区間記録に迫るペースで疾走していたの

だ。当然、城南文化大の前後を走っている大学も、追いつかれまい、遅れをとるまいとし

て、ハイペースを維持した。

  最後尾で鶴見を出発したムサは、動地堂大、城南文化大の選手に追いすがり、いよいよ

併走しようとしていた。「一キロ」のプラカードを掲げ、係の学生が沿道に立っている。

ムサは腕時計を確認した。最初の一キロを、二分四十八秒で入っていた。

  このペースで、二十三キロある二区を走りとおすことなど不可能だ。後半に苦しくなる

のは目に見えていたが、ここでひるんでいては順位を上げることなどできない。ムサは動

地堂、城南文化の選手にやや遅れて、帝東大を抜き去った。鶴見で七十メートルあった帝

東大との差を、一気に縮めたことになる。

  沿道はものすごいにぎわいを見せていた。「黒山のひとだかり」とは、こういうことな

のですね、とムサは思った。共催の新聞社が配った小旗を持つ人々が、どこまで行っても

歩道に並んでいる。どのひとも晴れやかな表情で、一瞬で通りすぎる選手に声援を送って

くれる。予選会も上尾シティハーフマラソンも比較にならないほどの盛りあがりだ。

  これが箱根駅伝。しかも、そのエース区間を走るということなのだ。

  ムサはうれしかった。この国で生まれたのではないし、自分を歓迎していない人々もい

る。それはわかっている。でも、いまこの瞬間、私はなんと自由で平等な場所にいるんだ

ろう。併走する選手も、姿を見ることもできないほど前方にいるトップを走る選手も、た

しかに同じ時間と空間を分けあっている。

  ひたすら練習を積み、走るための一個の肉体と化して、いま同じ風を肌に受けている。

  藤岡が言ったことは正しかった。理工学部の留学生のままでは、きっとこんな興奮と一

体感は味わえなかった。真摯に走りと向きあったものだけが知る、血の沸騰するようなざ

わめきは。

  ひときわ歓声が大きくなり、ムサはようやく、自分が横浜駅前を通過したことに気づい

た。八・三キロ地点だ。いつのまにここまで走っていたのだろう。頭上を覆っていた第三京

浜の高架が、右手に大きくカーブを描いて離れていく。ひらけた空から、薄い日射しが降

りてくる。ムサは乾きはじめた路面のうえで、城南文化と動地堂との併走をつづけた。

  リズムに乗ったムサの頭からは、五キロ地点で大家から「ペースを抑えろ」という指示

があったことも、この先に二区の難所、権ごん太た坂ざかが控えていることも、すっぽり

と抜け落ちていた。

「速すぎる」

  清瀬はラジオのイヤホンを耳から引き抜き、大家に電話をかけた。

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