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九、彼方へ(19)

时间: 2025-06-27    进入日语论坛
核心提示:「はい?」顔を上げて横を見ると、清瀬は膝のうえで祈るように組んだ両手に、じっと視線を落としていた。「きみの名前は、きみに
(单词翻译:双击或拖选)

「はい?」

  顔を上げて横を見ると、清瀬は膝のうえで祈るように組んだ両手に、じっと視線を落と

していた。

「きみの名前は、きみにぴったりだな」

  走は戸惑った。なぜ急に、清瀬がそんな話題を振ってきたのかわからない。

「俺の親父も、陸上をやってたんですよ。高校を出て働くようになってからは、全然走っ

てないみたいだったですけど」

「お父さんが、きみに走ることを勧めたのか?」

「いや、特には」

  走が父親の期待を感じるようになったのは、中学に入って本格的に陸上をはじめてから

だ。スポーツ推薦で入った高校の陸上部を退部して以来、走は父親とまったく会話してい

ない。箱根駅伝に出場することが決まっても、連絡はなかった。

  ハイジさんは、なにを言いたいんだろう。

「どうしたんですか?」

  と走は聞いてみた。

「やはり、十人だけで箱根に挑むのは無謀だったな」

  と、清瀬は微妙に話題をそらした。「箱根の山には、魔物が棲むと言われているの

に……。俺の意地のせいで、神童に、いや、きみたち全員に負担をかけることになった」

  清瀬が大きなため息をついたので、走は動揺した。

  よくわからないけど、ハイジさんが弱気になっている。

  どうしよう、どうしよう、と走は必死に考えをめぐらせ、「いまさらですよ」と言っ

た。言った直後に、これではフォローにならないと、なおさら混迷が深まった。

「いえ、だからつまり、メンバーが十人しかいないのは、最初からわかりきってたこと

だって意味で」

  走はしどろもどろになりながらも、懸命に言葉をつづけた。「わかっていて、ここまで

来たんじゃないですか。それに、俺たちは十ヽ人ヽだヽけヽじゃない。商店街のひとたち

も、大学の友だちも、協力して応援してくれてる」

「そうだな。そうだった」

  清瀬はまたため息をついた。今度のそれは、新鮮な空気を体内に導き入れるための、深

呼吸に似ていた。

「走。俺の父は郷里で、高校の陸上部の監督をしているんだ」

「へえ、そうなんですか」

  清瀬はいつも論理的かつ合理的なのに、今夜にかぎっては話題の選択に脈絡がない。走

は怪訝に思いながらも、相槌を打った。

「俺にとって『走る』ということは、当たり前の、生まれたときから定められた行為だっ

た」

  うつむき加減の清瀬の横顔が、暗い車窓にほの白く浮かびあがった。清瀬がなにを言お

うとしているのか、走は全神経を集中させて聞き取ろうとした。

「俺の両親は見合いで結婚した。父が母と結婚しようと思った決め手は、母が年を取って

も太りそうになかったからだそうだ」

「は?」

  清瀬は口端だけで笑った。

「肥満の遺伝子は走る人間にとって大敵、というわけだ。父は、母の両親にも会って、太

らない体質であることを確認した。すべては、走りに適した子どもを作るためだ。ちょっ

とすごいだろ?」

「……かなりすごいですね」

  走も実は、道行く女性や、テレビに出ているアイドルを見て、なにが一番気になるかと

いえば、肉づきだ。走るからには、太ることは罪だ。自分が常に気にしている部分だから

こそ、女の子を見てもまず、余計な肉がついていないかどうかをチェックしてしまう。こ

の世のだれよりも自分の体重に一喜一憂しているのは、口先ばかりのダイエットに励む女

性ではなく、長距離の選手なのではないかと思うほどだ。

  だが、そんな走だって、生まれてくる子どもの体型にまで思いを馳せたことなどない。

好きになった女の子がぽっちゃりしていたとしても、それが理由で思いを封じたりはしな

いだろう。太らなそうな女と結婚する、という発想は信じがたかった。

「おかげさまで俺は、たしかに食べても食べても太らない体質だよ」

  清瀬は両手で顔をこすった。「父は悪いひとではないんだが、一事が万事、その調子な

んだ。陸上バカってやつだ」

  ひとのことは言えないので、走は黙っていた。清瀬は手を膝に戻し、なにも置かれてい

ない網棚に目をやった。

「俺は父の勤務先の高校に入学し、父の指導のもとで走った。父は、走がいやがる徹底管

理型の監督だ。毎日毎日、ひたすら走らされた。でも俺は、なにも言えなかった。脚に違

和感があっても。きみとちがって、『こんなのはおかしい』と父に言う勇気がなかったん

だ」

  電車が小さな駅のホームに停まる。だれも乗り降りするものがないままにドアが開閉さ

れ、また走りだす。

「俺が高校のときに監督と喧嘩したのは」

  走は声を振り絞った。「勇気なんかじゃないです。ただ、自分の感情をコントロールで

きなかっただけで」

「俺は走りに対して真摯じゃなかった」

  と清瀬は言い、再びうつむいた。「大人の言うとおりに、適当に距離だけ走っていれば

速くなるものだろうと、たかをくくっていたんだ。きみみたいに、魂の底から走ることを

追求してはいなかった。俺にできた小さな反抗は、強い陸上部のない、自分の行きたい大

学を選ぶことぐらいだった」

  掌で右膝を撫でる。そこに過去の痛みがすべて埋まっているかのように、ゆっくりと。

「走れなくなってはじめて、走りたいと心から思った。今度こそ、だれかに強制されるの

ではなく自分の頭で考えて、走ることを真剣に望むひとと一緒に、夢を見たいと思った」

「ハイジさん……」

「アオタケの住人たちは、うってつけの人材だった。俺は証明したかったんだ。弱小部で

も、素人でも、地力と情熱があれば走ることはできる。だれかの言いなりにならなくて

も、二本の脚でどこまででも走っていける。俺は、箱根駅伝でそのことを証明したいと、

ずっと願ってきた」

  走は目を閉じた。清瀬の決意と、大学に入ってから抱えつづけていたのだろう四年ぶん

の思いが、冷たく激しい波のように打ち寄せてくる。

「夜の町を走るきみが、俺の横を通り過ぎていったとき」

  清瀬は静かに言った。「見つけたと思った。俺の夢が形になって走っている、と叫びた

かった。自転車を漕ぐうちに、きみが仙台城西高の蔵原走だとすぐわかった。わかってい

て、俺は行き場のないきみを巻きこむことにしたんだ」

  どうしていま、そんなことを言うんです。走は清瀬の潔癖さを、滑稽だとも残酷だとも

感じた。

  自由に、楽しそうに走っていたから声をかけたのだと、仙台城西高の蔵原だなどと気づ

きもしなかったと、嘘をつきとおしてくれてよかったのに。

「ハイジさん」

  走は目を開け、清瀬を見た。「俺の居場所も、行くべき道も、全部あんたが教えてくれ

た。ハイジさんが、俺に考えることを教えてくれたんです」

  電車が減速しはじめた。横浜駅が近いのだ。走は立って清瀬の腕を取り、座席から引っ

張りあげた。

「俺がそれを感謝してるってことを、知っていてください」

  走と清瀬は横浜駅に降り立ち、ひとでごった返す地下道を、東口に向かって歩いた。

「ねえ、ハイジさん」

  大切な秘密を打ち明けるように、走はひそやかに言った。「俺たち明日、走りましょう

ね。いままでで最高、っつうぐらいに」

  どんな思惑や真実が明らかになっても、築きあげた信頼と情熱がいまさら消え去ること

はない。

  どんな魔物が行く手に立ちはだかろうとも、もう決して逃げたりひるんだりしない。

  夢が形になる日だから、あとは心のままに走るのだ。

「そうだな。そうしよう、走」

  二人は顔を見合わせ、ちょっと笑った。そしてどちらからともなく、ホテルまでの道を

駆け抜けていった。

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