昔、男いろ好みなりける女に逢へりけり。うしろめたくや思ひけむ、
我ならで下紐とくな朝顔の夕かげまたぬ花にはありとも
返し、
二人して結びし紐をひとりしてあひ見るまでは解かじとぞ思ふ
【現代語訳】
昔、ある男が、色好みな女に逢って情を交わした。男は、この多情な女が自分のいない間に浮気をするのではないかと不安に思ったのか、このような歌を贈った。
<私以外の男に下裳の紐など解いてはいけない。たとえあなたが、朝顔のように夕陽を待たずに移ろってしまう浮気な美しい女であっても。>
女は返し、
<あなたと二人で互いに結んだ下紐ですもの。あなたにお逢いするまで決して一人ではほどくまいと思っています。>