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第十章 浴槽の貴族 二(1)

时间: 2023-12-26    进入日语论坛
核心提示:二 事件発見の顚てん末まつはこうである。 老女のお糸さんはけさは朝から不機嫌であった。女中のタマ子がどこへいったのか姿を
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 事件発見の顚てん末まつはこうである。

 老女のお糸さんはけさは朝から不機嫌であった。女中のタマ子がどこへいったのか姿を

みせない。しかも、朝はみなさんお部屋でお食事をとられることになっている。下働きの

女中がいることはいるが、そんなのひとまえへ出せる柄ではない。

 しかたなしにお糸さんは老ろう軀くをかって、みずからお膳ぜんをはこばなければなら

なかった。彼女はまず敬老の意味からも、イの一番にヒヤシンスの間へお膳をはこんだ。

糸女はドアをノックしたが、中から返事はなくて、シャワーのほとばしる音がかすかにき

こえた。たぶん朝の入浴ののち、シャワーを浴びているのであろうと思って、できるだけ

大きな声でよんでみたが返事はなかった。

 糸女は困ってあたりを見まわしたが、さいわいドアのわきに花か瓶びん台だいがあっ

た。中国風の頑がん丈じような黒檀の台に、ゴタゴタとした中国風の模様が彫りこんであ

り、これまた中国焼きの大きな壷つぼがおいてあったが花は活いけてなかった。

 糸女はやっこらさとその壷を廊下におろすと、そのうえにお盆をおいて、できるだけ大

きな声を張りあげて、ドア越しにそのむねを告げておいて立ち去った。シャワーの音がは

げしくほとばしっていたので、こちらの声がきこえたかどうか心細かったが、そんなこと

しったことかとお糸さんは中っ腹であった。

 時刻はちょうど八時だったという。

 お糸さんはそれから柳町善衛、篠崎慎吾と順繰りにお膳をはこんで、さいごに日本座敷

のほうへ移った倭文子にお膳をもっていったとき、タマ子のことを聞いてみたが、いいえ

と素っ気ない返事であった。その点、陽子や奥村や金田一耕助は世話がやけなかった。か

れらはみんな食堂へ出てきてお糸さんの労をはぶいた。九時十分まえ金田一耕助は、奥村

の運転する車で名琅荘を出発した。その時分もうそうとう新聞記者がつめかけていたが、

金田一耕助はたくみにそれをまいて名琅荘を脱出した。

 金田一耕助を送り出しておいて、お糸さんはその足でヒヤシンスの間のまえまできた

が、そこでおもわずおやと眼をそばだてた。黒檀の花瓶台のうえにあるお盆はまだ手つか

ずで、しかも、シャワーの音は依然としてはげしく奔流している。お糸さんは卒然として

思い出した。昨夜十二時過ぎ、田原警部補の要請で、天坊さんを呼びにきたときも、シャ

ワーの音がきこえていたことを。

 明治の元老古館種人閣下に仕えてきたお糸さんは、ひとをひと臭いとも思わぬ気丈な女

性だったが、さすがにきのうのきょうだけに、はっとと胸をつかれる思いであった。把と

つ手てに手をかけてみたが、ドアには鍵がかかっていた。お糸さんは天坊さんの名をよび

ながら、はげしくドアをたたいたが、返事はなくて答えるのはシャワーのほとばしる音ば

かり。

 お糸さんは花瓶台からお膳をおろした。花瓶台をドアのまえにもってくると、やっこら

さとそのうえによじのぼった。がんじょうな黒檀の台はお糸さんの重量を支えるのに十分

だった。ドアのうえにはステンド・グラスの回転窓がついている。それを半開きにしたと

ころで、人間ひとり潜り込めるものではないが、内部のようすをうかがうには事足りた。

 十二畳の居間にはひとけがなく、斜め右前方に暖炉がみえ、マントルピースのうえの小

さな鎌倉彫りのお盆のうえに、銀色のものが光っている。このドアの鍵かぎらしい。左側

に寝室へつうじるドアが見えているが、そのドアは締まっており、その奥からシャワーの

音がきこえてくる。半開きとはいえ回転窓が開いたので、シャワーの音はさっきより大き

くなった。お糸さんはそこからまた二、三度、天坊さんの名をよんだが、依然として返事

はなく、きこえるものといってはシャワーの音ばかり。

 ここにおいてさすが気丈者のお糸さんも、膝ひざ頭がしらがガクガクふるえた。

 ドアに鍵がかかっており、その鍵がこの室内にある以上、鍵のもちぬしも当然この部屋

の中にいるはずである。それにもかかわらず、これだけよんでも返事がないとはどういう

ことか。シャワーの音はもう一時間もつづいている。もしそれゆうべ聞いたシャワーの音

が、あのままいままで続いているのだとしたら……?

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