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動く岩

时间: 2023-09-13    进入日语论坛
核心提示:動く岩すると、アア、これはどうだ。彼等が振返るのを合図の様に、竹藪がザワザワと鳴って、掻き分けられた竹の葉の間から、人間
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動く岩


すると、アア、これはどうだ。彼等が振返るのを合図の様に、竹藪がザワザワと鳴って、掻き分けられた竹の葉の間から、人間の顔が一つ二つ三つ四つ……合計五人。その中の一人は真先に藪を飛び出すと、いきなり倒れている珠子の側へ駈け寄って、抱き起しざま、正気づける様に、その名を呼び続けるのであった。彼女の兄の相川守青年だ。彼が老探偵と一緒に悪漢の服を着て、運転手とばけていたことは、読者も既に気づかれた通りである。
竹藪から現われたあとの四人は、云うまでもなく、守青年が急を知らせて同行した警察署の人々だ。私服が二人、制服が二人、いずれも捕物に年期を入れた、老練の警官達である。
「ヤア、警官方、待ち兼ねました。早くこの二人を押えて下さい。ピストルを持つ手がしびれ相ですわい」
老探偵の挨拶に、四人の警官は物をも云わず、銘々めいめい右左から、青眼鏡と偽探偵の側へ駈け寄って、彼等の両手に飛びついた。青眼鏡の手を離れた長い槍が、音を立てて竹藪に倒れかかる。
「なんとうまく行ったことじゃ。これでさしもの妖虫事件も大団円という訳だね」
老探偵は、二人の悪漢が完全に繩にかかるまでと、なおもピストルの狙いをゆるめず、言葉を続ける。
「守さん、ご苦労でした。お父さんの様子はどうじゃったね」
守は珠子を抱いたまま振返って、
「有難う大丈夫の様です。意識だけは取戻しましたので、通りへ出て自動車を拾い、宅へ送らせて置きました」
と答えた。
「イヤ、あんたの機敏な働きが、非常に役に立ちましたわい。わしがこの偽龍介の隙を見て、たった一言耳打ちしたのを、ちゃんと呑み込んで、素早く立廻ってくれたお蔭で、この大捕物に成功しました。それにお父さんや妹さんの危難を目前にして、よく我慢を続けて下すった。流石は『探偵さん』じゃ。ハハハ……、今度の捕物ではあんたが第一の殊勲者しゅくんしゃと申してもよいですぞ」
そんな問答が取り交されている間、二人の悪漢は、未練千万にも、このに及んで、繩をかけられまいともがき廻っていた。両手は警官に掴まれているので、逃げ出すことは思いも及ばなかったが、繩だけはかけられまいと必死の努力をしていた。
「オイオイ、みっともないじゃないか。大悪党にも似合わぬ、未練な真似はよしたらどうだ」
老探偵は単純に悪人共の未練と解して、叱りつけたが、それはただ未練からの抵抗に過ぎなかったであろうか。もっと別の理由があったのではなかろうか。二人の悪人が、最初警官に手を取られた時、妙な目くばせをしていたのを、誰も気づかなかったが、彼等には何か深い考えがあったのではないかしら。
しかも、誰も気づかなかったのは、彼等の目くばせばかりではなかった。実を云うと、さい前から、もっともっと変てこなことが起っていた。無生物が生物いきものの様に動いていたのだ。先刻青眼鏡が「この岩を混ぜて四人だ」と意味ありげにいった、あの張子の岩が、ジリリジリリと、一匹の奇怪な亀の様に這い出していたのだ。匍匐ほふくする岩石! なんと前代未聞の椿事ちんじではないか。
暗さは暗し、まさか小道具の岩が這い出そうなどと、常識では想像も出来ない事柄なので、それがいつの間にか竹藪の根元を離れて、老探偵の背後に位置を換えてしまったのを、絶えて知るものもなかった。
高さ三尺、径二尺程の、小さな張りぼての岩は、今や三笠探偵の足もとにくッつく程接近していた。そして、オオ、実に驚くべきことには、そのてっぺんの貼紙を押し破って、ニョッキリと、人間の腕が現われたではないか。しかも、その手にはドキドキ光る小型の短刀を握りしめているのだ。
真蒼まっさおに塗った泥絵具の岩から白い手が生えたのだ。そして岩が短刀を振り上げて、今やまさに、我が三笠老探偵に危害を加えようとしているのだ。
危い、危い。だが、如何な名探偵も、無生の岩石が、殺人罪を犯そうなどとは知る由もなく、ただ前方の二兇漢を見つめて、抜目なくピストルを構えているばかりだ。
キラリ、短刀が閃めいたかと思うと、この張りぼての岩には目がついているのか、狙いもあやまたず、老探偵の腰のあたりを、したたか刺し通した。
流石の老武者おいむしゃも、この不意打ちには、アッと悲鳴を立てないではいられなかった。痛手に思わず取落すピストル。
「ソレッ!」
青眼鏡が烈しいかけ声を発した。今か今かと、そればかりを待構えていたのだ。
すると、腕力優れた偽探偵が、いきなり警官の虚をついて、握られた腕を振り離すと、竹藪に倒れかかっていた例の槍を拾うが早いか、一方の柱にとりつけられた唯一の電燈めがけて、発止はっしとばかり叩きつけた。
パチンと電球の割れる音、わめき騒ぐ人々の声。
唯一の電燈を奪われた見世物小屋は、今やあやめも分かぬ闇と化した。他の電燈を点じようにも、スイッチのありかが急には分らぬ。
だが幸いにも、警官達はてんでに懐中電燈を用意していた。入口からここへ来るのにも、その懐中電燈をソッと照らして、竹藪の迷路を辿って来たのだ。
「逃がすなッ」
「誰か入口へ廻れッ」
「電燈のスイッチはどこだ」
などの怒号が暗闇に交錯した。懐中電燈の光芒こうぼうが小さな探照燈の様に入りみだれた。
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