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燃える迷路

时间: 2023-09-13    进入日语论坛
核心提示:燃える迷路アッと思う間に、短劒が一閃して、老探偵の腰のあたりを、したたかに撃った。三笠龍介氏は痛手に耐え兼ね、賊に擬して
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燃える迷路


アッと思う間に、短劒が一閃して、老探偵の腰のあたりを、したたかに撃った。三笠龍介氏は痛手に耐え兼ね、賊に擬していたピストルを取落し、うめき声を立てて、その場に倒れる。
二人の賊は、得たりとばかり、警官の手を振りもぎって、いきなり、たった一つの電燈を叩き割ってしまった。広い竹藪の迷路は、文目あやめも分かぬ闇となった。
守青年と四人の警官とは、懐中電燈の光をたよりに、竹藪の中を走り廻って賊を追ったが、昼間さえ人を迷わす八幡の藪知らずだ。それを、この闇の中、慌てる程方角を失って、捕えて見れば味方同志の鉢合はちあわせであったりして、どこへもぐり込んでしまったのか、賊は容易に逮捕出来なかった。
それに、一番いけなかったのは、三笠探偵がなぜ倒れたのか、その原因を誰も知らないことであった。突然うめき声を聞いた。探偵の倒れる姿を見た。かと思うと、もう電燈が叩き割られて、忽ち真の闇であった。何を考えるひまもなかった。この不意の下手人げしゅにんが張子の岩だなどとどうして気が附くものか。
誰しも賊に援兵が現われたものと思った。相手はどうせ飛道具を揃えているに違いない。味方は守青年のピストルがただ一挺だ。何よりも生命の危険が警官達をおびやかした。その中で、老探偵の介抱かいほうはしなければならず、闇の迷路に逃げ込んだ賊を追わなければならなかったのだ。彼等が戸惑ったのも決して無理ではない。
併し、それだけならば、まだよかった。やがてもう一つ、非常な妨害が起ったのだ。
重なり合った闇の竹藪を通して、まるで怪談の人魂ひとだまのように、チロチロと揺ぐ光り物が見えた。賊の照らす懐中電燈かしら。それにしてはいやに赤茶けた陰気な色だがと思っていると、あちらにも、こちらにも、チロチロチロチロと、異様な光り物は、見る見るその数を増して行った。
火の玉程の赤いものが、ユラユラと限りもなく、闇の中を拡がって行く。そして、パチパチと竹のはぜる音。火だ。迷路の藪が燃えているのだ。
逃げ出した殺人鬼共が、手早くも竹藪に火をつけて、この見世物小屋を焼き払おうと企てたのだ。罪跡をくらます為か、逃亡を容易にする為か、迷路の中の探偵や警官達を苦しめる為か。無論そういう事も含まれていたであろうが、彼等の真の目的はもっと別の所にあった。あくまで執念深い妖虫は、餌食の珠子を、彼女の無残な殺害を、このまま思い切ることが出来なかったのだ。火事の騒ぎにじょうじて、彼女を奪い返そうと企てたのだ。
枯れ切った竹藪は、パチパチと威勢のいい爆竹の音を立てて、忽ち燃え拡がって行った。闇は見る見る追いのけられて、不気味なくれない一色ひといろに染め替えられて行った。渦巻くほのおは、数知れぬ巨獣の赤い舌であった。それが今や、幾重いくえの竹藪をめ尽して、恐ろしい速度で、こなたへこなたへと迫って来る。
もう賊の逮捕などに未練を残している場合でない。先ず我身の安全を計らねばならぬ。追い縋る焔と駈けっこで迷路を抜け出さねばならぬ。
「三笠さんを、頼みましたよ」
守青年は警官達に大声にわめいて置いて、自分は、失神からさめたばかりで、まだグッタリしている妹の珠子を抱き起すと、いきなり肩に担いで走り出した。
火のない方へ、火のない方へと、竹藪の幾曲りを、もどかしく、走り続けた。行手に敵が待伏せしていようなどとは、思いめぐらす余裕もなく。
ハッとすると、何かしら柔かい物が彼の足をすくった。不意をうたれて、みじめにぶっ倒れた。冷い土が鼻面に、口の中に。
痛さに暫くは身動きも出来ないでいると、背中に負ぶさっていた珠子の身体が、スーッと宙に浮いて、その代りに、チクチクと肌を刺す竹藪の一かたまりが、彼の上にドッと倒れかかって来た。
咄嗟に珠子を奪われたことを気附いたが、もがけばもがく程、覆いかぶさった竹藪がこんがらがって、加勢を求めようにも、その辺に味方の影もなく、兎角とかくする間に、珠子を奪い取った賊は、遙かの闇に逃げ去ってしまった。
やっとの思いで、彼が竹藪の下から這い出した時には、珠子は勿論、賊の姿も見えず、味方もどこへ行ったのか、三笠探偵の安否さえ分らぬままに、目を圧して迫って来るのは、ただ紅蓮ぐれんの焔であった。殺人鬼の執念を象徴するかの如き、数知れぬ大蛇の真赤な舌であった。
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