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銀座の案山子

时间: 2023-09-13    进入日语论坛
核心提示:銀座の案山子かかしそういう一聯いちれんの出来事が、銀座街を中心に継起して暫くの後、やっぱり銀座通りのRという大洋服店のシ
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銀座の案山子かかし


そういう一聯いちれんの出来事が、銀座街を中心に継起して暫くの後、やっぱり銀座通りのRという大洋服店のショウ・ウインドウの前に、妙な男が立止っていた。
型のくずれた黒ソフト帽、画家の様に長く伸した髪、青ざめた顔、ひどい近眼と見えて厚いレンズの二重眼鏡、ピンとはね上った口髭、三角型の顎髯、羊羹色ようかんいろたけの短いインバネス、その下から二十年も昔流行した、荒い柄の、薄汚れた縞ズボン、破れ歪んだパテント・レザーの礼装靴が見えているという、怪奇映画の主人公みたいな人物だ。
その人物が、さい前から、R洋服店のショウ・ウインドウの大ガラスの前に、じっと立ち尽したまま、まるで案山子の様に身動きもしないのだ。
ドンヨリと薄曇うすぐもりの天候であったし、日の短い頃なので、附近の時計店の屋根の大時計は、まだ四時少し過ぎたばかりだけれど、道行く人の顔もおぼろに、火ともし前の、最も陰気なひと時であった。
インバネスの男は、ショウ・ウインドウから三尺程離れた道路の真中に立って、ガラスの向う側の何かを、凝然ぎょうぜんと見つめている。五分、十分、二十分、彼の姿勢は生人形の様に不動であったし、彼の視線は見えぬ糸で結びつけた様に微動だにしなかった。
初めの程は、道行く人も、邪魔っけな奴だと、よけて通るばかりで、さして怪しみもしなかったが、時がたつにつれて、彼の凝視のただならぬ熱心さに、ふと好奇心を起して立止る人があると、それからは、二人立ち、三人立ち、またたくひまに、恐ろしい黒山の人だかりとなった。
そのくせ、そのおびただしい人立ちの中に、インバネスの男が見つめている品物を、ハッキリ知っている人は、一人もいなかった。人々はこの古風な服装をした怪人物の、ただならぬ様子を、烈しい好奇心で、ただ眺めているに過ぎなかった。
若しこの男が香具師やしであったら、彼の人寄せの手段は、実に見事に成功したと云わねばならぬ。又若し彼が、R洋服店に雇われた一種の宣伝係であったとすれば、通行者の注意を、かくもショウ・ウインドウに集め得たことによって、これまた非常の成功であったと云わねばならぬ。だが、この男は、香具師でも宣伝係でもなかったのだ。
「ちょっとお尋ねしますが、さっきから何を見つめていらっしゃるのですか。何か面白いものがあるんですか」
一人の洋服紳士が、たまり兼ねたのか、慇懃いんぎんに言葉をかけた。
「アア、何をとおっしゃるのですか」
インバネスの怪人物は、びっくりした様に振返って、紳士の顔を見、それから彼の背後の夥しい群集を眺めた。
「僕は一種の銀座人種でしてね。銀座の事には可成かなり詳しいつもりですが、今このショウ・ウインドウの前を通りかかって、ふと気がつくと、いつもの蝋人形がいなくなっているのです。見知越みしりごしの蝋人形がですよ。美しい奴でした。まだ若い娘でね」
インバネスが妙なことを云い始めた。彼の声は異様に甲高くて、隣に立っている紳士に話しかけているのが、群集のうしろの方まで聞きとれた。
「この洋服店のものが飾り替えたのではありませんか、そこに立っている女人形と」
如何にも、ショウ・ウインドウの正面には、一人の美人人形が、派出はでな洋装をして、長椅子に腰かけているのだ。
「ですからね、僕はここの番頭に聞いて見たんですよ。人形を取替えたかって。すると番頭は、一週間程前に飾り替えたばかりで、まだ二三日はこのままだと答えました。先生、人形がいなくなったことを知らないのですよ。ハハハ……、おかしいじゃありませんか」
彼の笑い声は、気違いの様に不気味であった。
「じゃ、君の思い違いだ。あすこに腰かけているのが、その人形ですよ、君の好きだっていう。……君の目がどうかしているのだよ」
紳士が少し軽蔑した口調で云った。うしろからし殺した様な笑い声が聞えた。
「アア、あなたは僕を気違いかなんかだと思って、馬鹿にしていますね。フフフ……それもいいでしょう。だが、今に後悔しますよ。マア、僕の云う事をおしまいまでお聞きなさい」
そこで、怪人物の不思議な演説が始まった。表面は紳士に話しかけているのだが、その実、背後の夥しい群集を意識しての演説であった。誰も立ち去るものはなかった。それどころか、奇妙な男の一言ずつに好奇心をまして、まるで大道芸人をでも見物する様に、耳を澄まして聞入っていた。
矢面やおもてに立った紳士は、少なからず迷惑そうであったが、つい立去るしおを失って、そのまま聞き役を勤めた。
「僕がなぜあんなに熱心にこの人形を見ていたか。その理由が分りますか。僕の顔をごらんなさい。ひどく青ざめてやしませんか。実を云うとね、僕は今、ブルブル震え出す程怖いのですよ。我ながら余り恐ろしい空想にゾッと総毛立っているのですよ」
怪人物は、怪談でも始める様に、話し出した。夕暗ゆうやみに眼鏡ばかりが、白っぽく光って見える。
「僕はね、このショウ・ウィンドウの知合しりあいの人形が、消えてなくなったことと、今日この附近に起った妙な事件とを結びつけて考えて見たのですよ。分りますか。僕がどんなに怖がっているか。あなたは平気ですね。今に平気でいられなくなりますよ」
「今日この附近に起った事件というのは?」
紳士がてれ隠しの様に口をはさむ。
「きっと旭湯の煙突の事件だぜ」
「それからマン・ホールの事件も」
銀座ボーイの囁き交すのが聞えた。
「そうです。その事件です。皆さんはあの事件の全体を知っていますか。恐らく御存じありますまい。
僕は目撃した訳ではありませんが、噂を尋ね廻って、すっかり知っています。マン・ホールから蝋人形の首が出た。湯屋の煙突に女の足は生えていた。それから、浜町河岸で女の右腕が掬い上げられたのです。木挽町では、犬が女の左腕を銜えて走ったのです。
ネ、分りましょう。首、二本の足、二本の腕、これを組み合わせると、ちゃんと一人の美人人形が出来上るじゃありませんか。御承知の通りマネキンには胴体というものはないのですからね。
これは非常に明らかなことです。僕は断言してもいいのです。このショウ・ウインドウの、僕の大好きな人形が、何者かの為に惨殺されました。憎むべき下手人は、人形の死骸を幾つにも切離して、方々へ捨てて歩いたのです。隠す為にではなくて、見せびらかす為に。……見せびらかす為にですよ」
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