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第三の犠牲者

时间: 2023-09-13    进入日语论坛
核心提示:第三の犠牲者銀座街頭ショウ・ウインドウ死体陳列事件が犯罪者の虚栄心からであったとすれば、彼は完全に成功したと云っていい。
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第三の犠牲者


銀座街頭ショウ・ウインドウ死体陳列事件が犯罪者の虚栄心からであったとすれば、彼は完全に成功したと云っていい。なぜと云うのに、その事があってから、妖虫殺人団の名は、一躍して全国的になったからだ。その翌日は、九州や北海道の地方新聞さえ、社会面の殆ど全面を、この銀座の怪事件に費した。人々はこの怪談めいた出来事に、賊の所業しわざを憎むことも忘れて、あきれ返ってしまった。これが一体人間の仕業であろうか。鬼ではないか、魔ではないかと、心の底から震え上らないではいられなかった。当の相川家の驚愕と悲歎は云うまでもなかった。殊に、不思議な因縁で妖虫事件に結びつけられている相川守青年は、愛する妹を失った悲しみ以上に、戦いに敗れたものの、名状し難い悲憤を感じた。悪魔を八裂きにして、その肉をくらってもあきたりないいきどおりを感じた。
だが、敵は眼にも見えぬ幽霊の様な奴だ。警視庁の全能力を以てしても、どうにも出来ない相手だ。二日三日は、珠子の葬儀などにとりまぎれて、知らぬ間に過ぎ去ったが、五日十日と日がたつにつれて、守青年はどうにも出来ない焦躁しょうそうを感じ始めた。
警察は一体何をしているのだ。あの完備した大組織の力でも、たった一人の繊細かぼそい青眼鏡の怪物を探し出すことが出来ないのか。
アア、三笠探偵が丈夫でさえいてくれたら、今頃はもう、賊が捉まっていたかも知れないのに。その頼みに思う三笠龍介氏は、三河島の見世物小屋で、張子はりこの岩の中に潜んでいた賊の一味の為にきずつけられ、まだ病院生活を続けているのだ。
守青年は、ただイライラするばかりで、何の考えも浮ばなかった。こうしてはいられないと思いながらも、自宅にとじ籠っている日が多かった。
その日も、彼は書斎の机によりかかって、両手の指で頭の毛を掻き乱しながら、いたずらに思い悩んでいたのだが、そこへ、ひょっこりと、珠子の元家庭教師殿村京子が入って来た。
この醜いけれど上品な未亡人は、我子の様にいつくしんでいた珠子の死に遭って、病気になるのではないかと案じられる程、なげき悲しんで呉れたのだが、やがて初七日しょなのかも済んだとき、彼女の方から解職を申出もうしいでたので、相川操一氏は、丁度珠子の学校友達の、あるお嬢さんの家から話があったのを幸い、殿村未亡人を、そこの家庭教師に世話をして、今日はそのお目見めみえの日であった。
「アア、殿村さん」
守青年はドアの音に振返って、元気のない声で云った。
「まだ考え事をしていらっしゃるの? いけませんね、そんなにくすぶっていらしっちゃあ」
殿村さんは、気がかりらしく眉を寄せて守の顔を覗き込む。
「どうでした。桜井さくらいうちは、お気に入りましたか」
青年は、てれかくしのように、別の事を訊ねた。桜井というのは、今度殿村未亡人が勤めることになった家の名なのだ。
「エエ、大変結構ですわ。それに、お嬢さんがすなおな、それはそれはお美しい方で、……アラ、こんなことあたしが云わなくても、守さんはよく御存知でしたわね。ホホ……、お嬢さんから、よろしくとおっしゃいました」
からかわれて、守青年はドギマギと目のやり場に困った様子であった。少しばかり赤面さえした。すると、彼は桜井のお嬢さんに、ただ妹の学友として知合いである以上に、何かの感情を抱いていたのであろうか。
「でも、あたし、桜井さんへ上ることは止そうかしらと思いますの。実はそれについて、守さんの御意見をうかがいに参りましたのよ」
突然、殿村未亡人が妙なことを云い出した。
「どうしたんです。やっぱり気に入らないことがあるのですか」
「イイエ、そうじゃないのですけれど、……守さん、あたし、いやなものに魅入みいられているのではないかと思いますの」
そして、彼女は俄かに非常に真劒な表情になって、じっと守の眼を見つめながら、聞えるか聞えないかの囁き声になって云うのだ。
「あいつが、また現われ始めたのですよ。あたしが桜井様のお嬢さんと二人きりで、さし向いでお話していました時、ヒョイと気がつくと、マア、ゾッとするじゃありませんか。お嬢さんの着物の肩の所に、……アレが、エエ、アレよ。赤い蠍! いつかの珠子さんの時とおんなじ奴が、お嬢さんの肩にとまっていたじゃありませんか。……」
「殿村さん、それ本当ですか」
守青年は、ギョッとして、彼も妙に低い声になって、思わず聞き返した。
「お嬢さんをビックリさせてはいけないと思って、黙っていたのですけれど、あたしの怖がっている目つきで、お嬢さんにもそれが通じたと見えて、サッと青くおなりなすって、思わず立上って身震いなさると、あの赤い虫の死骸が、ポトリと床へ落ちたのです」
「ウン、それで?」
「お嬢さんは、余程怖かったのでしょう、叫び声を立てて、いきなりあたしにすがりついておでなさる。あたしもつい年甲斐としがいもなく、大きな声を出してしまったものですから、それからお邸中やしきじゅうの大騒ぎになったのです」
「で、何時いつその蠍が、品子しなこさんの肩にくッついたのか、分りましたか」
品子さんというのは桜井令嬢の名だ。
「それが分りませんの。気味が悪いではありませんか。お嬢さんは、着換えをしてから、一度も外出もなさらず、又外からのお客さまに会ってもいないとおっしゃるのです。アア、又目に見えない幽霊がうろつき始めました。その蠍が何所どこをどうしてお嬢さんの側へ近づいたのか、いくら考えて見ても、まるで見当もつきませんの」
「じゃ、あなたが品子さんに最初会った時はどうでした」
「無論最初からあの虫はくッついていたのですわ。それを迂濶うかつにも、あたししばらく気附かないでいたのです。そうとしか考えられません。でなければ、あたしが見ている前で、誰かがお嬢さんの側へ近づいたことになりますが、いくら何でも、それを見逃す筈はありませんもの」
「じゃ、あの畜生め、今度は品子さんを餌食にしようっていうのだな。アア、どうすればいいんだ。で、警察へは届けましたか」
「エエ、あちらの御主人がお電話をかけていらしったようでした。あたし、それからきおいとましたものですから、……ねえ、守さん、あの悪魔は、あたしに魅入っているとしか思えませんわ。あたしの行く先々へつきまとって、そこのお嬢さんを恐ろしい目に合わせるのだとしか思えませんわ」
「では、あなたは、品子さんが、あいつの為に殺されると思うのですね」
「エエ、恐ろしいことだけれど、そうとしか……」
そして、二人はうそ寒い曇り日の、窓の光の中で、黙ったまま、異様に目と目を見合わせた。お互の瞳の中に、何かゾッとする魔性のものが潜んででもいるように、恐怖にわななきながら、
「三笠さんは御容体どうなんでしょう」
やっとしてから、殿村さんが、ふと気を変えて、別の事を訊ねた。
「まだ急に退院出来そうもないということです。実は今日あたり、一度訪ねて見ようと思っていたところですよ。何でしたら、あなたも一緒にいらっしゃいませんか」
「エエ、でも、今日は少し差支がありますから、……あなたから、よく今度のことをお話し下さいませんか。あたし、三笠さんには、いずれゆっくりお目にかかって、よく御礼申し上げたいと思っているのですけれど……」
殿村さんはそう云って、なぜかニッコリ笑った。守は彼女のこういう笑顔わらいがおを今まで一度も見たことがなかったので、このおばさんにも、こんな表情があったのかしらと、何か発見でもしたような感じであった。それに、言葉と笑顔との間に、全く何の聯絡もないのが、一層変な感じを与えた。殿村さんは一体何がおかしくて、あんな盗み笑いをしたのであろう。
だが、一瞬間「オヤッ」と思ったばかりで、殿村さんの笑顔が素早く消え失せると同時に、彼もその事を、つい忘れてしまったのだけれど。

病探偵


その晩、夕食後に、守青年は、父操一氏にも話をした上、病床の三笠老探偵を訪ねた。
三笠氏は、そこの院長と懇意な関係から、自宅に近い麹町外科医院という、小さい病院へ入院していた。
余り立派でない西洋館の玄関を入ると、消毒剤の、どっか身内のうずくようなにおいが鼻をついた。そして、ベルの音に、その不快な匂の中から、四角な顔の事務員が現われた。
「三笠さんに御面会ですか。あなたは……」
彼は、守をジロジロ見ながら、何か警戒する様なうさんな口振りで訊ねた。
「相川守というものです。三笠さんに御伝え下されば分ります」
守は少しムッとして答える。
「余程御懇意な方ですか。でないと、実は、面会は禁じられているのですが」
事務員は奥歯に物のはさまった様な、妙な云い方をする。
「じゃひどく悪いのですか」
「エエ、今朝から病勢が悪化しているのです。それに、少し事情がありますので……」
「いずれにしても、一度取次いでくれませんか。どうしても面会出来ない様なら帰りますから」
事務員は、又しても、守の姿を、頭のてっぺんから、足の先までジロジロと眺めてから、不承不承ふしょうぶしょうに奥へ消えて行った。
何だか変だ。もう余程よくなっていなければならない時分なのに、突然悪くなった様なことを云う。そして、あの警戒ぶりはどうしたというのだろう。何かあったのではないかしら。
異様な不安を感じながら、たたずんでいると、暫くして引返して来た事務員が、今度は俄かに愛想よくなって、
「御面会なさるそうです。どうかこちらへ」
と先に立った。
「病勢が悪化したと云うのは、どんな風なのですか。傷口が化膿かのうしたとでもいうような……」
守が彼のあとについて歩きながら訊ねると、事務員は、少し声を低くして妙なことを云った。
「イイエ、傷の方は、もう殆ど治っていたのですが、実は思いがけないことがありましてね。三笠さんはひどい目に遭われたのです。御商売柄敵の多い方ですからね」
敵という言葉に、守はすぐ「赤蠍」を思い浮べた。若しやあいつが、探偵の病床へまで魔手を伸ばしたのではないだろうか。
だが、それを確める間もなく、もう病室であった。事務員はそのドアをソッと開けて、お入りなさいという目くばせをした。
病室というのは、病院の裏手に当る、階下の十畳程の洋間であったが、態と薄暗くした電燈の下に、白いベッドの中から、さも苦しげなうめき声が、不気味に漏れていた。
守が入って行くと、附添いの看護婦が、病人にそれを告げて、ソッと頭の向きを変えてやった。真白なシーツの中から、年取った探偵の白髪白髯の顔が、物憂ものうげにこちらを見た。
その顔を一目見ると、守青年は、ギョッとしないではいられなかった。アア、何という変り方であろう。三笠氏は元々痩せてはいたのだけれど、それが一層ひどく頬骨が出て、顔の皮膚は青いのを通り越してまるで藍色あいいろに見え、眼鏡をはずした両眼は、日頃の突き通す様な光が全く消え失せて、トロンと力なく濁り、口は、死人の様に顎が落ちて、下歯がむき出しになり、そこから覗いている黒い舌が、ひからびた様になって、ゼイゼイと喉にからんだ唸り声が漏れているのだ。
「三笠さん、相川です。ひどく元気がない様じゃありませんか。一体どうなすったのです」
守は痛々しく病人の顔を覗き込みながら云った。
老人は、見舞人を認めた様子で、少し眼を動かしたが、物を云うのが一通りならぬ骨折りらしく、
「アア、ま、もる、くんか。わしは、ひ、ひどい、めに遭った」と、もつれる舌で、やっとそれだけ云うと、ガッカリと疲れた様に、目をふさいで、又かすかに唸り始めた。
「どうしたのです。何かあったのですか」
守は看護婦をそばへ呼んで、小声で訊ねて見た。
「エエ、わたくし詳しいことは存じませんが、何でも、誰かから送って来た品物に毒薬が仕掛けてあって、それが三笠先生の身内みうちに入ったのだそうでございます。早く手当をしましたので、やっとお命だけは取止めましたけれど、でも、……」
と看護婦は不安らしく云う。
「いつの事です、それは」
「今朝程でございます」
「その品物っていうのは、郵便で来たのですか。そして、差出人は誰だか見当はつかないのですか」
「エエ、それが、何ですか、……」
彼女は口留めされているのか、知ってはいるけれど答えられないという様子だ。
「若しや、例の『赤い蠍』じゃありませんか。それなら僕も少しかかり合いの者なんだが」
「エエ、実は、三笠先生もそうおっしゃるのでございます」
彼女は「赤い蠍」という言葉に、サッと顔色を変えて、さも恐ろしそうに身をすくめた。
そうして彼等が、隅の方でボソボソと囁き合っていた時、突然、ゾッとする様な恐ろしい叫び声が聞えた。叫び声というよりは、寧ろ野獣の咆哮ほうこうであった。
「アラ、いけませんわ、そんなに御動きなすっては」
看護婦がベッドへ飛んで行って、もがく病人を押鎮おししずめようとしたが、瀕死ひんしの老探偵は、まるで気違いの様に身もだえをして、苦しさに耐えぬものの如く、わめき続けるのだ。一匹の痩せさらぼうた狂犬の様に、えつづけるのだ。
アア、その形相のすさまじさ。額には静脈がムクムクとふくれ上って、昂奮の余り顔色は紫に変じ、両眼は飛び出すばかり見開かれ、口は真夏の日中の犬の様にだらしなく開いて、よだれをたらしながら、悲鳴とも怒号ともつかぬ、一種異様の唸り声がほとばしる。そして、身もだえをするたびに、骨ばかりの様に痩せた両手の指が、断末魔の形でくうを掴むのだ。
「君、ここは僕がいるから、早く院長を呼んで来てくれ給え」
守もしがみつく様にして、病人の起き上ろうともがくのを押えながら、看護婦に叫んだ。
「では、ちょっとお願いいたします」
彼女はへやの外へ駈け出して行った。
三笠探偵の恐ろしい苦悶は、二三分間程続いたが、その間中、彼の目は、裏庭に面している窓のガラス戸へ釘着けになっていた。
守はふとそれに気づいて、思わずその方を見ると、真暗な窓の外に、何かしらチラと動いたものがある様に感じられた。ほんの一刹那ではあったけれど、彼の網膜もうまくはそれを捉えた。二つの目が、ガラス戸の外から覗いていたのだ。姿は闇に隠れて、ただ二つの目だけが、室内の光にキラキラと光って見えた。だが、ハッと思って見直した時には、もうそこには闇があるばかりであった。
幻影かしら。イヤ、幻影なれば、病人が同じ様に窓のその箇所を見つめている筈がない。何者かは知らぬが、窓の外から、ジッと室内を覗き込んでいた奴があったのだ。そして、妖星の様に光るあの二つの目が、奇怪な呪いの力を持っていて、三笠探偵をかくも狂わせているのだとしか考えられなかった。
そう思うと、四角に区切られた、窓の外のうそ寒い闇が、異様にもの恐ろしく、押えても押えてもはね返す病人の狂乱が、ただ事ならず不気味であった。彼は何かしら目に見えぬ理外の力と争っている様な、一種異様の恐怖を禁じ得なかった。
老人の解し難い発作は、守青年には非常に長く感じられたが、実は二三分程で、ケロリと納まった。突然、おこりがおちたという感じで、あれ程うめき苦しんでいた三笠老人が、グッタリと死人の様に動かなくなってしまった。
そこへ、やっと院長の医学博士はかせと看護婦とがやって来た。守は病人を二人に任せて置いて、急いで窓の所へ行って、ソッとガラス戸を上げ、闇の中を覗いて見た。だが、別に人の隠れている気配もない。やっぱり幻影だったのかしら。それとも、魔性ましょうの奴は、素早くも逃げ去ってしまったのだろうか。
やがて、窓をしめて、ベッドの所へ戻って来ると、院長は別に詳しく診察した様子もないのに、もう病室を引上げそうにしていた。
「心配した事はないのでしょうか。素人にはひどく悪い様に見えるのですが」
守は簡単に挨拶したあとで、訊ねて見た。
「イヤ、悪いと云えばひどく悪いのだが、併し、御心配なさる事はありませんよ。マア、ゆっくり話して行って下さい」
赭顔あからがおの快活らしい院長は、消毒衣の太った腹の前で、両手をやなぎの様に、シナシナと二三度振って見せて、ニコニコ笑いながら病室を出て行ってしまった。看護婦もそのあとについて、ドアの外に姿を消した。
何だか変な具合だ。この重態の病人を放って置いて、冗談らしく笑いながら出て行くとは、この医者はどうかしているのではないかしら。
ベッドの病人を見ると、やっぱり瀕死の形相物凄く、今にも絶え入り相にうめいている。
「三笠さん、苦しいですか。もう少し先生にいて頂く方がよくありませんか」
三笠探偵のしなびた顔を覗き込んで訊ねると、老人は幽に首を振って、
「イヤ、き、きみに、すこし、話したい、ことがあるので、あの、ひとだちに、座を、はずしてもらったのだ」と、息切れしながら、やっと云った。
それから、骨ばっかりの様な手を挙げて、例の窓の方を指さしながら、
「カーテンを……」
と云う。
「カーテンをしめるのですか」
ああ、やっぱりあの人影に気づいていたのだ。あの二つの目が怖いので、カーテンをしめよという意味に違いない。
守は立って行って、二つの窓のブラインドをおろし、その上にカーテンを注意深く引き合せて、元の椅子へ戻った。
「すき間のない様に、だれも覗かない様に」
病人が念を押すので、もう一度立って、どこにも隙間のないことを確めて帰った。そして、病人に話しかけようとした時である。
「ウフフフ……」
実に突然、ベッドにうずまった瀕死の病人が笑い出した。痩せた頭部をガクガクさせて、おかしくてたまらない様に、声を殺して笑い出した。
何ということだ。可哀相な老探偵は、とうとう気が狂ってしまったのかしら。
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